第二十三話 謀反と誅伐⑤

「フリーデ・カレンベルク。アタシはこれから、アンタをわ」


 突き付けられた切っ先を見て、フリーデがすぅと目を細める。


 刃に背を向けて、フリーデは一歩一歩ゆっくりと歩いて遠ざかっていく。


 一歩、二歩、三歩。まるで庭を散策するように、彼女の足はゆるりと進む。


 その背はがら空きの様に見えて、一分の隙も無い。僅かに攻めあぐねたマージェリーの頬に玉の汗が浮く。


 ――落ち着けアタシ。チャンスは少ない、失敗は許されない……!


「捕まえる、ですか、随分と大きく出ましたね。何とも可愛らしい、いわけない言葉です。七つの時から少しも変わりませんね」


「はんっ、とんだ節穴ねフリーデ。アタシを、マージェリー・ミケルセンを、あんまりめんじゃないわよ」


 マージェリーがスキールニルを一本口へ咥え、素早く左腕の袖を捲る。細い腕には幾つもの紋様が刻まれており、青く発光している。


 魔力の気配を感じて振り返ったフリーデの目が、それを捉えた。


「刻印魔術……いいえ、そんな紋様は見た事がありませんね。どこでこんなものを……」


 フリーデの視線が、今度はスキールニルの方へと向けられる。暫し黙考した後に、何かに得心したのかフリーデは僅かに息を呑んだ。


「……なるほど、神聖文字ヒエロスですか。これなら確かに、喉を裂かれても目を潰されても魔術を行使できます。スキールニルから発想を得ましたね」


「精霊言語、と言って欲しいんだけど?」


 神聖文字ヒエロスとは、精霊の言葉を人間が認識できるよう象形化した特殊文字である。


 人の言葉が乱れるよりも以前。神代に用いられていた統一言語の一つである精霊言語は、人のものとは異なり肉声を用いない。


 必要なのは、魔力と意思だけ。自分の意思を魔力で編んで世界へと伝えるのが統一言語である。


 近接戦闘となる可能性が高い時は、即時発動できる刻印魔術を優先する。その為に用意したのがこの神聖文字だった。


 スキールニルの刀身にも極小の神聖文字が無数に刻まれている。魔力を流すだけで自動で身体を動かせるのはこの為である。


「それで? 神聖文字の刻印程度で何ができるというのです。私がいつでもお嬢様のお命を握っている、その状況は何も変わっておりませんでしょう」


 す、とフリーデの指先が、マージェリーを示す。


「さあ、お嬢様。。ただし私の持てる分には限りがありますので、胴体とはお別れ願いますが」


「……いいえ、案外そうでもないかもよ」


 ずい、とマージェリーが一歩前へと踏み出す。


 スキールニルの刀身に、素早く青い魔力が走った。


「――スキールニル!」


 マージェリーが駆け出すのと、フリーデの腕に魔力が通るのはほぼ同時の出来事だった。


「……そこっ!」


 当人の限界を超えた速度で、マージェリーが駆ける。彼女のすぐ後ろで空間が切れ、ばちばちと音を立てて亀裂が生じた。


 ――まずは、北方。これは分かってる……!


 姿勢を低く保ち、ジグザグに軌道を変えながらマージェリーが進む。


 視界に青く斬線が映り、それを躱すようにして彼女は地面を蹴って軌道を変えた。


一瞬の後に空間は切れ、辺りに魔力が走る。マージェリーの右目は青く輝き、少し先の未来を映していた。


 ――未来視ですか。相手が私でなければ、有効な手となったでしょうが。


 攻撃が躱され、距離を徐々に詰められながらも猶、フリーデの表情は揺るがない。


 未来視はミケルセン家が秘術の一つ、本来であれば門外不出である。


 魔術最大の利点アドバンテージとなるのは相手が。エヴァが相手の際にはその利点が大きく働いた。


 基本的にミケルセン家以外の人間は、未来視のことを全く知らない。


 ただし、フリーデ・カレンベルクは唯一の例外、未来視を用いた戦法の天敵となる。マージェリー・ミケルセンの侍従として長年使えてきた人間であるフリーデは、ミケルセン家の秘術について余すことなく知り尽くしている。


 未来視の負荷に加えて、スキールニルの自動行動による身体への負担がし掛かれば、もって一分程度でマージェリーは動けなくなる。


 ――と、悟られそうにも関わらず手を打ったのです。何か隠していそうですが。


 フリーデの視線は、マージェリーの左腕へと移される。


 マージェリーの左腕は絶えず発光し、術式を発動させ続けていた。攻撃の一切はスキールニルに任せ、ごく単純な治癒術式だけを大量に刻んである。未来視やスキールニルで負った身体のダメージは、刻まれた術式によって絶えず治癒され続けていた。


 これでマージェリーは刻んだ術式の保つ間、無制限に身体へ負担を掛けられる。全力での活動可能時間は格段に伸びていた。


「なるほど、どうやら全くの考えなしという訳ではなさそうです。ですが……」


 フリーデの左腕が輝くのを、マージェリーの右目が認める。次の瞬間、彼女の視界には奇妙なものが映った。


 ――え、何これ……?


 映ったのは、ぐるりと回転する視界。それを不審に思ったマージェリーの足が、一瞬だけ止まる。


 刹那、彼女の眼前の空間が音を立てて切断された。ふわりと巻き上がった髪が、ちりちりと削れる。


 ――偏差撃ち! ほんの一瞬判断が遅れたら死んでた!


 全身から汗が噴き出し、マージェリーが歯ぎしりする。


 先程見えたのは、落ちた首で見た景色だったと気づくまでにそう時間は掛からなかった。未来視を使っていなければ、今の一撃で勝負は決していた。


「ですが、その程度の浅知恵で『聖者の左腕セファ・ガズラ』を攻略しようなどとは笑止極まりないですね。既に申した筈ですよ、作られる境の最大本数は――」


 ぞろりと、開いた五指がマージェリーへと向けられる。


「十本であると」


 フリーデの周囲の空間が、千々に切断される。不可視のまま切断されるもの、暫く形を残して留まるもの、そして弾ける魔力に、夜の砂漠が煌々と照らされる。


 ――次は東……あと一手!


 マージェリーの目が、形を残した境を追う。


「さあ! 如何なさいますかお嬢様! あとほんの十数歩で、私を捕まえられますよお嬢様!」


「…………」


 マージェリーが一度息を吸い、フリーデを見つめる。


 ――聖者の左腕と、フリーデの心象結界術式は別物。心象結界には恐らく関係していない。


 聖者の左腕は聖者メトジウスの遺体。フリーデの心象と聖者の心象は大きく食い違うため、遺体の性質を結界へ練り込むことはできない。


 もしも遺体の性質が入った結界ならば、結界へ閉じ込めた瞬間にマージェリーの身体はバラバラになるだろう。


 尤も、聖者の左腕があれば捕縛した瞬間に首を落とせるので大して弱点にはなり得ないのだが。


 ――まずは、ひたすら距離を詰める!


 マージェリーが再び駆け出し、出現する境を掻い潜りながら進む。今度は円を描くように、フリーデの視界から逃れるようにして走る。


 それをゆるりと追いながら、フリーデは左腕でマージェリーを狙う。時折マージェリーの肌を掠めて血が飛び散るが、絶えず発動する治癒術式がそれを癒した。


 ――あと一手。……!


 フリーデへと接近しつつも、マージェリーの視界は常に、一瞬前に切断された空間を捉えていた。


 彼女が見つけたいものは、


 それまで肌を掠めていた不可視の境の中に、可視化された線となって残っているものがあるのを、彼女は見逃さなかった。


 ――南方! これで絞れた!


 短く息を吸い込み、マージェリーが大きく距離を詰める。


 しかしその先にあるのは、フリーデの左腕。そしてマージェリーが狙う間合いは、フリーデにとっての必殺の間合いでもあった。


 即ち、フリーデの意思が結界内に即座に発現する間合いである。


「――【捕縛】」


 ――来た!


 突如出現した枷によって、マージェリーの両手が拘束される。


 今度はフリーデの指が、二本指された。


「【執行】」


 最初に伝わったのは、左腕への鋭い痛み。次いで感じたのは、腹部への熱。


 一拍置いて、脳髄の焼けるような全身の激痛がマージェリーの全身を駆け巡った。


 マージェリーの左腕と腹から、深紅の花がぱっと咲く。


「が……ああああっ……!」


 歯を食いしばって痛みに耐えるマージェリーの腹から、血とはらわたが零れる。


 魔力を左腕に流そうとするが、術式は発動しない。刻印や魔術回路ごと斬られている、と気づく頃には、フリーデは既にマージェリーへと肉薄し、その腹へと手を伸ばしていた。


 愛し気に、そして恭しく、フリーデの右手がマージェリーのはらわたを持ち上げる。まるで織物を扱う様に、ゆっくりと丁寧にはらわたが戻されていく。


「ご存知ですかお嬢様。生きている人のはらわたは、とても温かいのですよ?」


「ーーーーーーッッッ」


「嗚呼、また間違えてしまいましたね。申し訳のしようもございません。ちょこまかと動き回るから、手元が狂ってしまいました」


 フリーデの指先が、再びマージェリーの魔術回路を捉える。


 彼女の凛とした歌声が響き、魔力の共振によってマージェリーの傷が癒え始めた。


 魔術回路が癒えても、刻印が損傷した今となってはもはや治癒術式の使用は望めない。つまり、傷が癒やされたとてもう次に打つ手はない。未来視もスキールニルの無理な使用も、フリーデにはもう届かない。


「…………」


「なるべく、じっとして頂きたいものですね。そうすれば痛くしませんので」


「……わよ」


「はい?」


「……捕まえたわよ、フリーデ」


 はし、とマージェリーの手がフリーデの右手を掴む。スキールニルを口に咥え、フリーデを睨むマージェリーの目には、何かを確信した時にだけ見える輝きがあった。


 ――捨て身! 私に切られることを織り込み済みでの突撃でしたか!


 フリーデの目が、驚愕に大きく見開かれる。


 マージェリーはフリーデが必殺に持ち込める間合いにまで近づいた時、ことに全てを賭けた。死ぬか生きるかの際どい賭けではあったが、フリーデが自分をいたぶる為に生かすであろうと彼女は踏んで命を張った。


 マージェリーの手からフリーデの右手へと、青い光が伝い始める。


 ――解析開始。接触完了、魔術回路特定完了、魔力流動パターン解析完了、表層意識オドへの侵入開始……!


 ぞぶり、と身体の中を急速に侵される感覚がフリーデの腕を駆け上る。


 青い光は血管の様にフリーデの腕から胸、首や腹へと急速に走って行く。フリーデの魔力がマージェリーの魔力で塗り潰され、空間のあちこちで大きなノイズが現れ始めた。


 ――マズい、魔術回路を掌握される……!


 この間、僅かに数秒。


 危険を察知したフリーデが右腕を振り払って飛び退くも、既に彼女の右半身はマージェリーの魔力が青く伝っていた。


「ふぅー……ふー…………」


 フリーデの額に汗が浮き、初めて顔が歪む。


 魔術回路の掌握ドミネイト。直に触れた相手の魔術回路の位置を探り、魔力の流れを掴み、自分の意思と魔力で塗り潰す。


 探査・解析という万華鏡カレイドスコープの特性とマージェリーの鋭い感応能力を遺憾なく使った、現状ではマージェリー・ミケルセンだけが使える技術である。


 掌握された回路からは、マージェリーの魔力が消えるまでの間、魔力の流れがき止められる。自在に魔力を操作する事ができなくなり、術式は発動できなくなる。今やフリーデは、結界内での空想具現化を行使することができなくなっていた。


 さらにもう一つ、掌握ドミネイトには大きな効果がある。


「……わよ。アンタの魔力は把握したし、これまでのやり取りでここの結界も大体見えたわ」


 マージェリーがスキールニルを両手で持ち直すと、これまでとは比べ物にならない量の魔力が周囲に満ち始めた。結界の内部が、びりびりと震え始める。


「始めるわよ。アタシは今から、ここを乗っ取るわ」


 きらりと、スキールニルの刀身が煌めく。


「スキールニル!」


 マージェリーがフリーデの脇をすり抜けて走り、スキールニルを振るう。


 斬りつけたのは、虚空。されど確かに手ごたえはあった。


 と音を立てて、空間に大きくヒビが入った。地面や空にも亀裂が走り、並んだ断頭台がぼろぼろと崩れ始める。


「なっ――」


「次ッ!」


 マージェリーが再び動き出し、虚空を斬りつける。空間にはさらにひときわ大きな亀裂が走り、崩れ始めた世界から元の聖堂が少し顔をのぞかせた。


「……四方よもを切る、というのがクサいと思ってたのよね」


 にやりと、マージェリーが微笑む。


「普通、魔術を組む時は円で組むもの。円は力の循環、魔力をロスなく巡らせるには一番効率が良い。けれどアンタは四方よもを切って四角形で術式を組んだ。その時点で攻略法は見えていたの、後は。順転か反転かを掴むだけだったわ」


 亀裂の走った空間へと、マージェリーがスキールニルを差し込む。フリーデの結界内へと青い魔力が走り、結界全体がばりばりと音を立てて壊れ始める。


「結界はさほど広くない。結界の角となる四隅へと、常に魔力を伝わせて心象を描画しているのね。風景が同じだから最初は気付かなかったけど、これだけ『聖者の左腕』を乱発してたら流石に気が付くわ」


 ――まさか、結界を張った瞬間にもう気付いていたとは……!


 フリーデの首筋を汗が伝い、僅かに歯ぎしりをする。


 マージェリーの指摘通り、フリーデは円形の結界を張ることができない。


 円は力の循環。放った魔力は必ず自分の方へと戻り、空間の情報をフィードバックして再び発射される。


 しかしフリーデの左腕は別人の腕である。受け取ったフィードバックと聖者の心象とのズレが身体の負荷となり、円滑にフリーデの心象を描画できなくなる。


 その為フリーデは結界を展開するにあたって、中継地点となる魔力の門と通り道を作り、一度放った魔力を門と道にだけループさせて術式を展開している。フィードバックを受け取っての微細な調整はできなくなるが、これでフリーデの心象だけを描画することができる。


 それは大きな利点であるが、同時に大きな弱点でもあった。つまり、門を破壊すれば結界の維持は不可能となってしまうのが、この術式の致命的な欠点である。


「『聖者の左腕』で境を作った時、ノイズが走る瞬間があったわ。その順番は北方、東方、南方、西方の順。つまりこの結界は


 魔力の波動がひときわ強く、空間を駆ける。道を通って流れてきた結界の魔力がスキールニルへと絡めとられ、緑の光が青へと変化した。


 ノイズが走る、即ち空間とのズレが生じるという事は、上手く空間を描画できていない瞬間があるという事である。


 聖者の左腕で切断された空間を修復すること自体は、魔力がその場に十分あるならば容易い。しかしフリーデの術式は特殊なものである。


 円で組んだ術式とは異なり、魔力が巡った時でなければ空間を更新できない。ノイズの走る方角と修復される時間差を見て、マージェリーは魔力の巡りが順転であることを見抜いた。


 マージェリーが最初に破壊したのは東の門。次いで破壊したのは北の門。


 一巡して集まった魔力は全てマージェリーの下へと集められた。これでもう、フリーデは己の心を形にできる全てを失ったことになる。


「……ほら、崩れるわよ」


 順転で流されていた魔力を、今度はマージェリーが反転で流し始める。


 逆流する魔力に耐えかねた空間が音を立てて崩れ、元の聖堂へと戻っていく。それまでの宵闇は聖堂の光に晒され、描かれていた世界は破片となって散らばる。


 ――構造は分かった。今なら私もできる筈……!


 崩れる破片の一枚一枚を、青い糸が繋ぐ。マージェリーの魔力が糸となり、フリーデの結界の残滓をかき集めて繋ぎ合わせ始めていた。


「私の、結界の残滓を利用して……!」


 ――構造が分かっただけで、本来ものでもないでしょうに!


 魔術回路の掌握ドミネイトの効果は二つ。


 一つは、回路の強制停止による魔術の発動阻害。回路そのものを遮断し停止させることで魔術を行使できなくする。あらゆる魔術が魔力を用いる以上、一つの例外もなく魔術を封じることができる。


 そしてもう一つは、魔術の万華鏡カレイドスコープを装着して直に触れることで魔力の流れや編まれた術式を読み取り、自分の知識として取り込める。


 降霊魔術の最高峰たる心象結界魔術であっても、その例外ではない。


「――巡れ」


 ふわり、と風が一陣吹き抜ける。


 石造りの床に立つマージェリーの足元から草原が出現し、一瞬で床全体へと広がる。辺りに緑の匂いが立ち込め、草原からは木が幾本も生えて二人を円形に囲んだ。


 ――嗚呼。やはり貴女は天才なのですね、お嬢様。


 清澄な魔力が、木々の中を渡る。


は始原の息吹いぶき。其は久遠くおんへと歩む星々の子。仰ぎ見るは我が女王ティターニア」


「ぐぅ……っ!」


 左腕を向けようとしたフリーデへと、突風が吹き付ける。風圧で目を開けていられなくなった彼女は、咄嗟に手で顔を庇って視界を塞いでしまった。


 ――なるほど、これでは『聖者の左腕』は使えませんね……。


 風の音の中でも、マージェリーの声ははっきりとフリーデの耳へ伝わって来る。


「緑の歌は涼やかに。銀の泉は清らかに。あけの日差しは柔らかに。渡り、巡り、潤し、午睡ごすいを誘う。我が足元は安息の遠郷。求むること、探すこと、侵すことは能わじ。

 祝福を。甘く、懐かしく、離れがたい幻を。女王の腕はあなたを抱き、あなたの全てを受け入れる。永遠の夢は、永久とわの理想は、閉じた瞼で仰ぎ見てこそ映ると心得よ――!」


 放たれた魔力が爆発的に膨れ上がり、フリーデの全身を包む。


 フリーデの意識は一瞬途切れ、一瞬後に彼女ははっと息を呑んで目を開いた。


 最初に伝わるのは、濃くも懐かしい緑の香り。例え一度も自然を体験したことの無い者であっても必ず郷愁の想いに駆られる、魂の故郷の香り。


 次いでフリーデの目に入ったのは、足元の花だった。うっかりすれば踏みつけてしまいそうな花へと彼女の視線は縫い留められ、静寂の中ではっと息を呑んだ。


 そこは、太古の原生林だった。


 巨大な木々が立ち並び、草花が生い茂る森林の中を、青く発光する無数の魔力の粒子が照らしている。見上げれば満天の星空が、きらりと地上を照らしている。夜の森であるにも関わらず、そこは真昼の様に明るい世界だった。 


 現実ではない異界。この森は、フリーデ・カレンベルクの知るどの森林とも、そして世界に存在する森林のいずれにも一致しない。


 フリーデの全身を、恐怖とも興奮とも歓喜とも取れる何かが駆けあがる。


「心象結界……術式……!」


「ここはアタシの心の中。ここはアタシのたなごころ。フリーデ・カレンベルク、!」


 其は、降霊魔術の最高峰。妖精たちの故郷にして永遠の理想郷。


 マージェリー・ミケルセンの心象は、たった今形となった。

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