10話.[可愛かったから]

「おお、ここが俊君の部屋か」

「なんにもないぞ?」

「いいんだよ、少し気になっていたから入れてよかったよ」


 椅子に座ってみたり、ベッドに座ってみたり、床に座ってみたりと色々試す。

 その中で一番椅子の座り心地がよかったからそこに座らせてもらうことにした。

 あ、全て許可を貰ってからしているため常識がないとかそういうことではない。


「つか、昨日も入れたよな?」

「い、いいんだよ、こう……ゆっくりやっていかないとね」


 急いでいたらすぐに飽きられてしまいそうという怖さがあった。

 やっぱりこういう関係になれたからにはなるべく長くこのままでいたい。

 乙女だからというのもあるし、単純に彼のことを気に入っているからだ。

 だからなるべくは言うことを聞くつもりでいる。

 恥ずかしくても素直に気持ちをぶつけるつもりでいる。

 ちょっと前までとは違うんだからちゃんとしていかなければならないんだ。


「襲ったりしないからそう固くなるなよ」

「固くなっていたのは昨日の俊君だよ?」

「……流石に友達の親と会ったらああなるだろ」


 ……自分もそうだから余計なことを言うのはやめようと決めた。

 いやでも、昨日の俊君は可愛かったなあ。

 敬語を使っているところとかも初めて見られて嬉しかった。


「しかもぺらぺら喋るしな」

「だって隠す必要がないもん」


 言わないでねと言われた情報を吐いているわけではないから大丈夫だ。

 これからも自分に関わることなら隠さずに言うと決めている。


「大胆だよな」

「そうかも、だって君を食べたくなっちゃうしね」

「じゃあ食べてみてくれ」


 優位な立場に立ちたいということで押し倒して首筋を噛んでおいた。

 優しくを意識したから食べているというよりもただ歯が痒くてしているみたいになった。

 だけどずっとやられっぱなしというわけにもいかないからこれでいいんだ。


「……ないわ」

「えぇ」


 そのガチで引いた感じだけはやめてもらいたかった。

 なんか悲しくなって怒る気にもなれなくて戻ろうとしたら今度は私が下になる番だった。


「こうされたらどうする?」

「じっと見るかな、俊君なら無理やりしたりしないから」

「……卑怯な人間だ」


 今度は彼が椅子のところまで移動して座った。

 こちらもちゃんと体勢を直して座った。


「……ああいうのはやばくなるからやめてくれ」

「わ、分かった」

「まあでも、これでどっちが上なのかははっきりしたな」

「私だよね?」

「ああ、そうだよ」


 可愛かったから移動して撫でておいた。

 そうしたらこの前みたいに物凄く強い力で抱きしめられていたたた! と言う羽目になったのだった。

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85作品目 Rinora @rianora_

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