09話.[言いようがない]

「ど、どっちから告白したの?」

「それは俊君の方からかな」

「あ、やっぱりそうか、瑞桜ができるわけがないもんね」


 できないというわけではなかった。

 どちらかと言えば求められて受け入れる側の方がよかったというだけで。

 ……それに昨日はちょっと大胆になりすぎてしまったというのもある。

 いやだってさ、自分から抱きしめてしまうとか私的にはそれだけですごいことだ。

 それなのに二度も、一日に二度も男の子に対してしてしまったんだよ!?


「それ以上はしていないよね?」

「それ以上って?」

「そのほら、……き、キスと――あれ、なんていまびくっとなったのっ?」

「な、なんでもないっ、初日でいきなりするわけないでしょうが!」


 あれは事故みたいなもの、そういう風に考えている。

 ……勢いでされたのに痛かったりしなかったから経験があったのかもしれない。

 でもまあ、俊君ならモテて既に誰かと付き合っていてもなにもおかしなことではないし、過去のことでごちゃごちゃ言うような面倒くさい人間ではないからそこは全く問題ない。


「瑞桜、あの空き教室に行こうぜ」

「ちょっと待った! あそこできみはなにをするつもりなの!?」

「なにって、普通に休むだけだけど」

「き、キスとかしないよね?」

「しないよ」


 やっぱりああして冷静に対応できるようにならないと駄目だ。

 いちいち慌てて感情的になっているようではなにかがありましたよと言ってしまっているようなものだから。

 あとは年上として情けないからすぐに直さなければならない。


「付いてく、健全なことしかしないならいいよね?」

「別にそれでいいから行こうぜ、休み時間もそう長いわけではないんだから」


 途中で望君も加わってわいわい盛り上がっていた。

 なんで呼んでもいないのにこっちにいるって分かるんだろう?

 なんか空気とかで分かるのかな? もしそうならかなり特殊な能力としか……。


「瑞桜先輩、あのときはすみませんでした」

「あのとき? あ、もしかしてなしにしましょうと言ったときのこと?」

「はい、そりゃ拒絶されたら行きたくもなくなりますよね」

「あー、だけど都合が悪くなったときだけ頼ろうとしていたのも事実だからね」


 君が悪いわけじゃないよと言っておく。

 だって実際、ひとりになってから求めたんだから卑怯としか言いようがない。

 それまでは言ってしまえば翼がいてくれればいい、俊君がいてくれるからいいなどと考えて行動してしまっていたので、そんな存在を拒絶する方が当然かなと。


「ごめんね、だけどもう前にも言ったように逃げないから」

「はい、これからもよろしくお願いします」


 握手をして笑ってみせた。

 彼も笑ってくれてなんか嬉しかった。

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