第二十一話 イーリスの独白
何処で間違えたのだろう。
暗い部屋の中でわたしは布団に包まりながら一人、自問する。
『向いていない。お前は剣を捨てるべきだ』
昔から兄さまに言われ続けた言葉が頭を過る。
反抗するように、見返してやると努力し続けた日々。
誰かの役に立ちたい一心で色んなことに挑戦した。
そうして少しずつできることが増える度、兄さまの視線は悲し気なものへと変化していった。
力は護る為に振るうものだと今は亡き祖父に教えられ。
平和を目指すことは正しいことだと信じて疑わなかった。
今でもそれは間違いではないと思っている。
だけど、その選択が帝国の崩壊を招いてしまった。
「ッ……」
兄さまがわたしを庇って槍に胸を貫かれる瞬間の記憶が鮮明に蘇る。
結果として兄さまが正しかったのではないのか。そう思わずにはいられない。
平和に拘り、対話を用いて降伏させた国の
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「おい。いつまで腐ってやがる?」
光の入らない閉ざされた部屋のドアを乱暴に開け、一人の男が入って来る。
「だれ……?」
外からの光に眩しさを感じ、目を細めながら問いかける。
ぼやけた視界にうっすら映るのは黒髪の少年。
「おいおい。誰ってのはないだろ。一応、この城の主なんだがな?」
「そう、ですか……ごめんなさい……」
フィアさんに連れられ、隣国に滞在しているのだったけ。
泣き疲れて寝てたからか、どれくらいここで過ごしているのかも分からない。
「もう丸三日経っている訳だが?
まともに食事も摂らないわ、何かする訳でもないわで。お前は死にたいのか?」
「それも……いいかも、しれないです」
唯一の肉親を失い、護るべき祖国も失った。
生きる理由などありはしない。
「本気で言ってるのか? お前らに尽くした奴らの忠義はどうなる?」
「……」
「流れた血は? 戦場で散っていった者たちの犠牲はどうなる?」
「……あなたに、何が分かるんですか……」
護る物は既になく、生きる必要もない者の気持ちなど。
全てを護り抜いた者に分かるはずもない。
「いいか? オレ達みたいな
「……」
「そしてその犠牲に意味を持たせてやれるのは常に生き残った人間だけだ」
これは責任の話だと彼は語る。
そして言う通りまだわたしは、その責任を果たせていない。
「……どう、やって?」
わたしは彼らに報いることができるのだろうか。
護るべきものすら護れなかったわたしに。
「知るか。それぐらい自分で考えろ」
「……」
解答は得られず、突き放される。
ここまで言っておいて無責任だと思うと同時に、犠牲に報いることなく死を待っていた自身の無責任さにも気づき、呆れてくる。
これは自分で出さないといけない答えなのだろう。
「恨んでないんですか……?」
ふとそんな声が漏れ出る。
戦争をしていた国の人間だったはずだ。
侵略もしてしまった。多くの人の命を奪ってしまっている。
罵声の一つや二つ浴びせてもおかしくはない。
それなのに何故? そう問いかける。
「他の者なら恨んでるだろうが、オレは恨むなんて大層な気持ち持ち合わせてねぇよ。どちらが先に仕掛けようが戦争は戦争。反撃したんだから同類だろ? それに恨むなら護りきる努力をしてなお、護りきれなかった己の未熟さこそ恨むべきだ」
何が起ころうと対処しきれない自分にこそ責任があると、そう語る。
それはあまりにも強い芯を持った現国王アレクシス・アルウェウスを表す言葉だった。
「だからオレは打てる手は全て打つ。それが魔王の手を借りることになってもな」
その言葉で、なんとなく考えないようにしていたこの隣国が存続している意味を理解した。
帝国軍約十四万の兵は小国と魔王の前に全て敗れ去ったのだと。
悲しくはあるが、不思議と恨みはない。
護るものは無くなってしまったが、皆に報いる為にやらなければならないことは見えてきた。
『―――帰ったらぁ、褒めて貰わないとぉ』
胸を槍で刺され、遠のいていく意識の中で聴いたラリアの呟き。
まるで裏で糸を引く者がいるような言い方だった。
最初は属国共同による反逆。
そう捉えていたけど、属国含めた帝国全土が消滅していたことから、話は変わってくる。
そこまで思い至った所で、アレクシスは声のトーンを落とし、
「さてと、ここからが本題だ。帝国消滅の元凶について、お前の知ってること全て話せ」
不敵な笑みを浮かべながら、そう口にしたのだった。
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