第十九話 対策会議

 あれから半日後。

 アルウェウス王国へと戻り、客間で座りながらアレクシスと話をしていた。


「無事なのは喜ばしいことだが、ありゃどういうつもりだ?」

「どういうつもりも何も。部屋を手配してくれたことには感謝する」


 祖国を失い、絶望していたイリスには休息が必要だろう。

 一人の時間を与えるため、部屋を用意してくれたアレクシスに礼を述べる。


「そういうことじゃねぇよ。なんで皇妹を連れてきたのかって聞いてんだ」

「今しがた仔細は語ったはずだが?」


 帝国で何があったか、どういう経緯かは既に話した。

 理解は得られると思ったけど、


「だから言ってるだろ。敵国だった所の皇族なんて厄介ごとにしかならねぇんだよ」

「理解はしている。故に一カ月。それ以降は追い出しても構わん」

「はぁ、これ以上は時間の無駄だな。それでいこう」


 アレクシスが折れ、イリスについての話が纏まる。


「それで? ある程度の話は掴めたが、原因の大爆発については見当ついてるのかよ?」

「未だ不明瞭である点が多いと言わざるを得ない」

「そうか。参ったな。最大の脅威だった帝国が消えても、帝国を滅ぼした何かが不明じゃあ手の打ちようがねぇ」


 帝国を滅ぼした爆発が、いつ自分の国に牙を剥くか分からない。

 その可能性を理解しているからこそ、若干の焦りが伺える。


 情報さえあれば、ある程度の対策はできる。

 戦場に罠を予め仕掛けていたように。

 しかし今回は明確な情報がない。故にアレクシスは匙を投げた。


「一人で帝国を滅ぼした狂人だったことに賭けるしかないな」

「複数、或いは組織だったなら煩瑣はんさ極まるがな」

「言うな、言うな。考えたくもない」


 帝国領土全域を砂海に変えた大爆発。

 他にも扱える者が現れれば被害は帝国の比ではなくなるだろう。

 もしかすれば私達が到着した頃には目的地の国が砂海になっていたということも、降伏勧告を受け入れていた国が砂海になっているということもあり得てくる。


「ったく。どうすりゃいいんだ。戦後処理で手一杯だってのに」

「この国に魔術に詳しい人間は居ないのか? 宮廷魔術師の様なものは?」

「居ないな。大魔術師を雇える帝国と一緒にしないでくれ」

「そうか……」


 大魔術師ソロン程の者は居なくとも魔術師アネモア程度の者ならと期待したが、良い返事はなく。


「これから魔術王国メイディアに掛け合うかとも考えたが、ソロンを擁していた帝国が滅びたんじゃ期待できないのが現状だ」

「確かにな」


 爆発に居合わせなかったから対処できなかったのか、対処できないと理解していたからあの場に居なかったのか、については疑問が残るが。肝心な時に役に立たないのでは雇用する意味もないだろう。


「改めて訊くが、時間さえ確保すれば魔王オマエなら対処は可能か?」

「不可能ではない」


 見栄を張ることなく、客観的に事実を述べる。

 実際、どんな魔術や魔法、事象だろうと縮小領域ラディ―レンさえ起動できれば対処できる。


「ただ、容易ではないだろう」


 起動するまでの時間の確保。敵と対峙しているなら、妨害の阻止。

 そして負担の掛かる術式の為、二度三度と対処しきれないのが問題点だ。


「やはり、そう簡単にはいかないか……」


 打つ手の無い現状に再び頭を悩ませ続けるアレクシス。

 他人ごとだと切り捨てるのも簡単だが、縮小領域ラディ―レン以外で対処しきれる自信がないのも事実。独学で発展させた魔術だけではなく、現代の人間の扱う魔術についても学ぶべき頃合いだろうか。


「そうだな……魔術について記した書物はあるか? 人間の扱う魔術について少し理解を深めておきたい」


 もしかすれば新しい発見があるかもしれない。

 現状の問題を打破する何かを求め、アレクシスに問う。


「専門性の高いモノは流石にないが、一般的なモノであればあるはずだ。手配させよう」

「極力、専門性の高い書物を望む」

「難しいことを言いやがる。ウチにはんなもんねぇ―――」


 そこまで言いかけ、アレクシスは思い当たる物があったのか口を噤む。

 そして一呼吸置いてから冷静に、且つ慎重に言葉を紡ぎ出す。


「……一応聞いておくが、何の為に魔術を学ぼうとしている?」

「件の大爆発。魔術的傾向が強いように感じた。

 故に現代の人間の魔術について識ることで更なる対処が可能になるかもしれない」


 基礎を教わり、独学で発展させた私の魔術では若干の原理が異なってきている。

 現代の人間の魔術を更に学ぶことで、分析や究明、再現や対処が容易になるはずだと思い、答える。


「分かった。ちょっと待ってろ」


 そう言ってアレクシスは離席し、部屋から出ていった。


--- ---


 それから少しして帰ってきたアレクシスの手には古めかしい書物が握られていた。


「それは?」

「この国の防衛機構。防御魔術を記した本だ」

「ほう」

「最先端の魔術ではないため、期待はできないかもしれないが。

 この国、随一の専門書のはずだ」


 そう言って書物を手渡して来る。


「良いのか?」


 国家機密を漏らしているようなもののはずだ。

 通常なら許されない。


「他言無用、悪用厳禁。これが条件だ」

「守れるかは分からぬが、其方らの不利益にはならないことを約束しよう」


 そう答えて、アレクシスから専門書を受け取る。


「なんなら、例の大爆発を抑える防護結界なんてのも生み出してくれてもいいんだぜ?」

「難しいだろうが、一度考えてみるとしよう」

「まじかよ。期待して待ってるぜ」


 そうして話し合いは終わり、専門書片手にグレイシーの待つ客室へと戻った。

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