第十三話「猛焔の獅子」
猛焔の獅子、レオニス・マルドニオス。
三百年以上前の大戦にて、マルドニオス家の地位を確固たるものにした獣族の英雄。
焔を纏い、周りの焔も自らのものとして扱う魔法を持つ、だっけ。
「……なるほど」
どうりで氷柱が効いていなかったり、劫火撃滅を浴びて無傷でいられた訳だ。
大戦で戦死したはずの彼がどうして、目の前に現れたのかについては疑問が残るけど……。
そんなことを熟考していると、
「ユクゾ、未熟ナ魔王ヨ!!」
痺れを切らしたのかレオニスは焔を猛らせ、全身の焔を頭部に集約していく。
そして数秒後、一気に放出することで焔の奔流を撃ち出した。
疑問に答えを出すより、彼の対処する方が先決、か。
今は思考を戦闘へと切り替える。
魔法陣を展開。そこから即座に水の激流を生み出し、焔の奔流にぶつけることで相殺。
爆発が起こり、爆風と共に蒸気が視界を奪っていく。
「来るか? 簒奪者にかける慈悲はないと知るがよい」
気配と読みを頼りに魔法陣を展開し、上空で巨大な石槍を生成。
蒸気が薄れ、視界が晴れてきた瞬間。
跳躍してきていたレオニスの焔爪が霧を切り裂き、頬を掠める。
「ッ!!」
間一髪で躱しながら術式を作動し、距離を取る。
上空で待機していた石槍が落下を始め、注意を逸らす為に幾つか礫を飛ばして牽制していく。
落ちる石槍を加速させ、レオニスを貫くのではなく圧し潰すつもりで叩き込む。
「ッオオ゛――!!」
咆哮に似た叫びと共に石槍が直撃。
レオニスを圧し潰し地を穿つ――ことはなく、地に着く前に石槍は砕け散った。
「ヨイ! ヨイゾ!! 小娘!!! オレヲモット、タノシマセロ!!」
レオニスが焔を放射しながら叫ぶ。
「これだから獣族は……」
魔法陣を展開し、焔を放射してくるレオニスに水砲をぶつけて相殺していく。
思えば反発してくる過激派も獣族が多かった。
元々、血の気が多い種族であるが故だとしても、いい迷惑だ。
そんな感想を抱いていると、
「ダガ!! コノ程度デハ、ナイハズダ!!」
レオニスは気づいたのか、焔を放射しながら吼える。
「オマエノ、マホウヲ、ミセロッ!!」
「……」
やはり獣族の英雄と云ったところだろうか。
誤魔化しは通用せず、魔法を使ってないことまで見破ってくる。
かといって魔法は、先ほどの劫火撃滅で回路に大きな負担が掛かったため使うのを避けたい。
なら、返す言葉は一つ。
「……其方程度、魔術でも充分であろうて」
「ソウカ、ナラバ!! ソノ傲慢サトトモ二、コノ地デ、ハテルガイイ!!」
怒号と共にレオニスの纏う焔の熱がさらに上がり青く変色していく。
纏う焔の量も増大していき、巨大な獅子が象られる。
「ちょっと不味いかも……」
これは魔術だけで凌ぎ切れるとは到底思えない。
明らかに選択を間違えた気がするけど、他の選択をしたとしてもこの結果は変わらないとも思う。
つまるところ、レオニスが発現する前に帝国軍を殺し切れなかったことが間違いの原因で――、
「まったく。私もまだまだよね……」
想定外であろうと自身の不始末が招いた結果に変わりはない。
グレイシーにまた心配を掛けさせることになりそうだけど、仕方がない。
まずは生き残ることが大事だと。覚悟を決める。
「些か癪ではあるが、前言を撤回しよう。赦せ。其方は我が魔法で以て鎮めるに値する」
万全ではない魔法回路に熱を灯しながら、レオニスへと訂正の言葉を投げかける。
「ソウカ! デハ、ゾンブンニ魅セテミロ! ユクゾ!!
獰猛な笑みを浮かべ、満足げにレオニスは叫ぶ。
「来るがよい。終わりにしてやろう」
<魔法陣展開>
掲げた手を中心に巨大な魔法陣が広がっていく。
それ皮切りにレオニスが動き、巨大な青い獅子が宙を駆け上がってくる。
<魔法回路起動>
十分な休息期間を得られなかったが、無理をきかせて起動する。
さらに十全な術式とするため、並行して詠唱も行っていく。
「水の根源。龍の御心」
<魔法術式構築>
魔法陣を七層に重ね、補助術式を組み込んだ魔法陣を間に三層挟むことで術式の強度を補強。
全てを一つの魔法術式として統一したことで魔法陣が蒼く灯り、回り始めた。
「渦巻く海の君臨者」
<魔法術式完成>
魔法陣が回転をする度、徐々に亀裂が入っていく。
負荷に耐えきれず悲鳴を上げる魔法回路を抑え、目前に迫るレオニスへと手を振り下ろす。
「審判の
術式が作動し、加速した十層の魔法陣が上から順に割れ始める。
一枚割れるごとに輝きを増し、二枚割れるごとに渦が巻き起こる。
そして最後の三枚まで到達した瞬間。
――水の龍が解き放たれた。
龍の咆哮が轟き、宙を駆けていた獅子も負けじと吼える。
落下する蒼い水龍を、駆け上がる青い焔獅子が迎え撃つ。
「ヴォオオ゛――!!」
両者が激突し、
しかし均衡は刹那に崩れ去り、猛焔の獅子は水龍と共に堕ちていく。
そうしてレオニスを呑み込んだ水龍はそのまま地に落ち、大爆発を起こした。
--- ---
「……はぁッ……はぁッ……」
爆風が吹き荒ぶ中。レオニスの最期を見届け、地に降りる。
猛焔の獅子は消滅し、勝敗は決した。
「疲れた……」
かつて名を馳せた英雄ということもあり、その力に偽りはなかった。
おかげで魔法を行使することになり、再び魔法回路の休息期間が必要になった訳だけど……。
「はぁ……」
深いため息を零しながらも、戦いが終わったことに安堵するが、
「これは……ちょっと、不味いかな……?」
動悸が激しく、軽い眩暈がする。
立っていることすらままならない。
魔法回路の酷使とマナを使いすぎたことによる反動か。
「早くグレイシーと合流しないと……」
座り込みたい気持ちを抑え、少しずつ歩いていく。
大丈夫だとは思うけど、グレイシーとアレクシスの様子も気になる。
そんな心配をしながら歩いていると、踏み出していた足が止まる。
動かないといけないのに、もう一歩も動けそうにない。
「また、グレイシーに小言を言われそう……」
そう独り呟いた瞬間。
「ッ!?」
何者かの気配を察知し、帝国側の空を見る。
「気付かれますか。一応、隠密の魔術を使用していたのですが」
そう言うと何もなかった空から、声の主が姿を現す。
白と黒の結んだ二つの長い髪に、天色の瞳が特徴的な少女。
「小国と聞いていましたが、まさか帝国騎士率いる八万の兵が壊滅するとは思いませんでした」
戦場の惨状を見て、少女はそう口にする。
「其方、何者か?」
「これは失礼。
以後、お見知り置きを」
ソロンと名乗る少女は芝居掛かった口調でお辞儀をして見せる。
なんとも胡散臭い。
「帝国の者であるならば皇帝に伝えるが良い。其方らは負けたのだと」
魔法回路が使えず、簡易的な魔術しか使えない今。
帝国の宮廷魔術師を名乗る少女を相手にすることは不可能。
暗に今はお互い退くことを促すが……、
「そうですね。ただこのまま帰っては皇帝陛下に怒られてしまいそうですし、
そう言ってソロンは無邪気に微笑み、こちらに杖を向けて魔法陣を展開し始めた。
周囲のマナが急速に彼女の下へと集まっていくのを感じる。
少しでもいいから抵抗を、と思い簡単な魔法陣を展開し――
「うそっ……!?」
即席で編み上げた術式はマナを通す間もなく自壊していった。
魔術による妨害……!?
魔法は使えず、魔術は妨害までされる徹底ぶり。
「これは本当に不味いかも……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます