第十四話 生死存亡
魔法陣が自壊していく衝撃で一瞬。思考に空白が生まれたが、すぐさま切り替える。
魔術による妨害。
一見すると術式そのものに干渉するものであるように見えたが、本質は術式ではなくマナへの干渉だろう。
魔術を行使する際に用いる魔法陣は微量のマナで基盤となる通り道を作り、そこに本命のマナを流し込むことで作動する。先ほどの妨害はその基盤となる微量のマナに行われた。
つまるところ、マナを通すための型を作れないから魔術が使えないということであり、逆にいうと型さえあれば魔術が使えるようにもなるということで――、
数瞬のうちに思考を終わらせ、膝を折り地に両手を着ける。
――元来、魔法陣とは地に描き、物に刻印して使用されてきた歴史を持つという。
そして基盤となる微量のマナは虚空などに描く際にしか使用しない。
ならば直接、地に描き展開することで妨害は軽減されるはず――。
そう考え、すぐさま取り掛かるが、ソロンの術式が発動する兆しが視える。
……魔法陣を全て描きだしている時間はない。
必要最低限の基盤だけ描き、手を当て強引にマナを流すことで魔法陣を無理やり拡張し完成させる。
粗さが目立ち、到底誰かに見せられたものではないけど、今はこれに賭けるしかない。
術式を作動させ、目の前を半透明な障壁が覆う。
次の瞬間。
ソロンの魔法陣が作動し、殺傷能力に特化した光線が放たれた。
「……ッ!?」
一瞬にして障壁が砕け、光線が身体の右側に逸れて通過していく。
直後、右腕に焼かれるような鋭い痛みが走る。
「くッ!!」
即席の障壁では全てを逸らすことができなかった。
結果。右腕は焼け爛れ、辛うじて身体に繋がっているといったところ。
「素晴らしいです。妨害を瞬時に見抜き、適切に対応してみせますか」
「……」
「実に惜しいですね。これほどの逸材が魔族とは……。いえ、魔族だから、ですかね?」
何か含みを持たせる言い方に引っかかるが、恐らく意味はそれほどないのだろう。
「知らぬ。其方こそ、ここで命を散らすには実に惜しいと我は思うが?」
「ご冗談を。あくまで私は見る側であって散る側ではないのです」
あくまで優位性は揺るぎないとソロンは嗤う。
「奇遇だな。我も散る側ではない」
「そうですか。お喋りが過ぎました」
そう言うとソロンの周りに魔法陣が複数個展開されていく。
「では、頑張って凌いでくださいね?」
その言葉と同時に全ての魔法陣が光を灯していく。
「……」
魔法は使えず、疲労と妨害から高度な魔術も使えない。
そして、辛うじて使える簡易的な魔術では対応しきれない。
悔しいけど詰んでいる。抗いようがない。
それでも、残された手でできることをやらなければならない。
地に膝を突き、残された左手だけで魔法陣の基盤を描き出す。
障壁が砕かれるならば面でなく点に集中し、致命傷を避けることだけに注力して術式を組み替える。
一つでも間違えれば死が待っている。
ここまで追い詰められたのは二百年振りだろうか。
極限の緊張が張り詰める中、今はただ生き残る強い意志だけを頼りに魔法陣を完成させる。
「よし!」
マナを流し、なんとか術式を作動させた直後。
待っていたと言わんばかりにソロンの光線が一斉に発射された。
「ッ……!!」
致命傷となる光線だけは障壁が防ぐ。
防がなかった光線が肩や腕を掠め、足を焼き、横腹を抉り取っていく。
痛みに悶えるのを堪え、ソロンの術式が終わるまで歯を食いしばりながら障壁を維持する。
気が遠くなりそうな攻防が終わり、ソロンの魔法陣は停止し、障壁の術式が解けた。
全身に走る痛みに顔をしかめながら、状況を確認するべく視線を上げると、
「お疲れ様でした。さようなら」
そう言って、ソロンはひと際大きな魔法陣に光を灯していた。
やられた。
対象としていた魔法陣を敢えて停止させることで、障壁の術式を解かされるとは……。
打てる手はなく。
新たに魔法陣を描くのは間に合わない。
生き残る希望は潰えたと云っても過言ではなく。
今の私に、この状況を覆すことはできない。
それは対峙している彼女よりも自分が一番よく分かっている。
――なら私でなければ?
「さようなら、か。その言の葉には同意しよう。其の命、散らぬと良いな?」
もう会うこともないであろう少女に最後の言葉を投げかける。
「最期まで何を言って――」
私の言葉の真意が理解できないとソロンがそう呟いた、瞬間。
真紅を纏った銀閃が音を置き去りにする速度で飛来し、ソロンへと斬りかかった。
「フィア様に何をしている!! 人間ッ!!!」
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