【15-2】
「ヒロくん、行ってくるよ」
「待ってるからな」
「うん」
二人の看護師にベッドを押されて病室の外に出たときだ。
「えっ、みんないてくれるの?」
そういえば言っていなかった。お互いの両親まで揃っていたことに驚いたようだ。
「みんな、帰ってくるのを待っているから、安心していっておいで」
三河さんに付き添われた美穂をエレベーター前で見送ると、一緒に手伝いをしてくれた看護師から声がかけられた。
「みなさん、3階の待合室でお待ちということでよろしいですか?」
「はい」
「かしこまりました。ではご案内します。どうぞこちらへ」
「はい」
俺たちは手術室の階下にある待合室で待機させてもらうことになった。外来はもちろん、見舞いの訪問者からも完全に隔離されているので、周囲に気兼ねする必要もない。
話をしていても構わないし、飲食をしても構わない。
でも、俺は一人で端にあるベンチに座って、黙って外を見ていた。
いや、見ていたというのは正しくない。頭の中で結像された情報を全く処理することはなかったから。
窓の外の風景ではなく、先日の説明を受けた部屋の様子と、頭の中に入っている進行スケジュールが思考の全てに広がる。
まだこの時間では麻酔をかけている頃だ。だからまだ危ない時間ではないはず。
進行については先日の説明の時に聞いていたから、つい時計にばかり気が向いてしまう。
まだこの段階でこんなに緊張してしまうのでは、自分が持たなくなってしまうのではないか。
そんな気にすらなってしまう。
こんなに気が張りつめたことはなかった。
だってそうだろう。自分の体にメスが入るわけではないのに。
実際に眠らされる美穂はどんなに怖いのだろう。それでも最後には「行ってくるね」と笑ってくれた。
俺の彼女はどんなに強いのだろう。
他の連中が知らなくても構わない。帰ってきたら、思いきり抱き締めてやりたい。
彼女だってそれをしてほしくて、必ず戻ると言ってくれたのだから。
「小田君、すまないね。こんな経験をさせてしまって」
隣に座ってきた美穂の父親からだった。
「いえ。まだ美穂さんに比べれば全然だと思います。本当に強くなったんですね……」
「それも、美穂が小田君に再会してからだ。最初は驚いた。でも、昔のことをひとつひとつ話してくれて、美穂が小田君のことを信頼していることが分かった。そして、君と一緒になるために治療を受けると宣言したんだよ」
美穂は、俺よりも先にその決意をして伝えていたのだろう。
「ご両親としてのご意見はなかったのでしょうか?」
確かに成人同士ではあるけれど、やはり本人たちだけで解決できない問題は両方の親に頼らなければならないこともある。
そんなときに、わだかまりを持っていては後々が不安だ。
「体を治すことを私たちの条件にしたときに、美穂は言い切ったんだよ。
『小田君とじゃなければこんな話はしない』とね。
美穂の決意は固まっていた。それならば、あの子の願いを叶えてあげるのが、私たちに出来ることだ。だからその封筒を君に託すことにしたんだよ」
「ありがとうございます。目を覚ましたら、今度は僕が実行する番です」
彼女の両親は満足そうに頷いて別のテーブルに移動していった。
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