15話 秘密の包帯
【15-1】
朝、俺が早すぎると思いつつ病院のロビーに入ると、すでに彼女の両親は到着していた。
「おはようございます」
「小田さんおはようございます。これ、美穂から頼まれていたものです。中は書き終えてあります」
もうすっかり顔馴染みになった彼女の両親から、1枚の封筒を受け取った。
「ありがとうございます」
「いえ、あの子をみていただけるなんて、親としては本当にありがたいことですから」
「洋行、間に合ったか?」
「父さん、仕事はどうした?」
今回の話は、うちの両親も見守ると言ってくれた。
「こんな日に普通に仕事なんかしていられないだろう。それならいっそ休みにしてしまった」
「そうか。ありがとう」
もう、これまでの半年でお互いの家への挨拶や両家の顔合わせも済んでいる。
でも、美穂がどうしても、約束どおりにこの手術を乗りきってからにしたいと頑なだった。
もちろん、その意味をみんなわかっている。
みんなで病室に入るわけにはいかないからと、美穂の母親が代表として俺の肩を押してくれた。
「いいんですか?」
「いまの美穂には、あなたの力が必要だから行ってあげて。私たちは廊下で待ってるから」
いつもどおりに部屋に入っていくと、すでにベッドの回りには、道具を乗せられた台車と、モニターなどが取り付けられているストレッチャーベッドが用意されている。これでそのまま術後のICUまで対応できるものだ。
三河さんがいつもどおり笑顔でモニタリングのセンサーなどを取り付けているようだ。
「おはようございます。美穂さん、ちゃんと来てくれましたよ。小田さんすみません、いま美穂さん服を脱いでますので、少しお待ちいただけますか?」
カーテンの後ろがわからそんな様子が伝わってきた。
「うん、そうそう。もうこちらのベッドに寝ちゃいましょうか」
「瑠璃さん……」
「もう、大丈夫です。このあと、最後に点滴の管を通させてくださいね」
カーテンの奥に、ストレッチャーが消えた。
「はい、これで準備できました。小田さん、お待たせしました」
カーテンを開いて、もう当日の準備が終わった状態での面会になった。
「ヒロくん……」
「美穂、待ってるから」
そこで、左手の包帯に気がついた。何かこの場で怪我でもしたのだろうか。
「その左手……」
「ああ、これですね? 美穂さんのお守りです」
「お守り?」
三河さんは目配せをして小声で説明をしてくれた。
「左手にいただいた指輪をつけているんです。点滴の固定と、怪我をしたように包帯で保護しておけば、解かれることはありませんし。一度外して十分に消毒だけはさせていただきましたから」
「瑠璃さん……」
「あれがあれば、手術室でも美穂さんは一人ではありません。お二人でいられますから」
本来で言えば、不要なものを持ち込むことは出来ないはずなのに。 もし見逃したと判断されれば、三河さんだって言われてしまうはず。
「私だって、時々は冒険しちゃうんですよ」
笑って言ってくれたあと、
「私も待ってます。お元気な姿で退院をお見送りしたいですから。そのためなら……」
真面目な顔で美穂にも頷いてくれた。
「ありがとうございます」
美穂の担当看護師が彼女でよかった。そう思わずにはいられなかった。
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