【1-2】




 この集まりには、幹事たちも頑張ったのだろう。


 自分を含めて、途中で転校したメンバーも見られる。その当時に一番仲がよかった子や、インターネットで探し当てたなどいろんなパターンがあったと思われる。


「そういや、誰か竹下たけしたの行方って知ってるか?」


 同じテーブルでまたひとり懐かしい名前が上がった。


「竹下? あぁ、竹下美穂みほだっけ? 何年までいた?」


「え? 4年くらいで転校したような……。よく入院したりしたよね?」


「心臓が悪いとか言ってたよな?」


 やはりそうか。俺もこの集まりに誘われたときに、何人か気になっていた存在がいた。


 そのうちの一人が、竹下美穂だった。正直、ハッキリとした引き際の記憶が無い。いつの間にか消えてしまったクラメイトの一人だ。


 何人かで話していても、完全な証言を持っているものがいない。


「竹下って、何年か前に亡くなったって噂を聞いたことあるけど……」


「マジか?」


「でも、転校後の話だから、正確なこと分からないけど……」


「じゃあ、勝手に変な情報を流すのはやめとけ。竹下に失礼だろ」


「小田……?」


「いや、悪かった。つい……な……」


 確かに、あまり体は丈夫そうではなかった。でも、だからと言って、それが事実ならもう少し情報があってもよさそうだから。確実なものがない限り、変な情報はトラブルの元だ。


「もし、なんか分かったら、また連絡しよう」


 最後に来年の再会を約束して、この年の会はお開きになった。





「小田君、竹下さんのこと気になる?」


 会場から駅までの帰り道、杉本が隣を歩いていた。二次会に行くメンバーもいたけれど、明日が朝から仕事ではそういうわけにもいかなかったから。


「いや、なんか足りないというか、うちのクラスにそんな奴がいなかったっけって感じ?」


「美穂ちゃんね、確か4年の終わりで転校したんだよ。でも、その前から入院したりしてたから、あんまりみんなの記憶に残っていないんだよね」


「そうか……。あの亡くなったってのは本当なんだろうか?」


「そこまでは分からない。でも、もし本当だったら、ちゃんと誰か知っていると思うんだよね」


「そうだよな……」


 釈然としない気持ちを抱えながら、夜の道を歩いていく。


「杉本は、こんな俺と歩いていて、彼氏にはなんか言われないか?」


「うん。今日は言わなかったけど、私、来年くらいに結婚するかも。高卒の私だから、あんまりバリバリ一人で働いていくより、二人での方がお金も楽だからね」


「そうだったのか。あの頃は本当に杉本には迷惑をかけてたな。ごめんな」


「ううん。それは平気。小田君も元気出してね。嬉しかったよ。久しぶりに会えて。また連絡取ってくれてもいい?」


 杉本との連絡先を交換して、彼女の乗る電車を見送る。


「またね」


「おう、またな」


 ドアが閉まる間際、手を上げた杉本に応えて、電車を見送った。





 一人、部屋に戻って明かりを点ける。


「竹下か……。どこかで元気でいてくれたらいいんだけどな」


 その時には、まさかの物語が待ち受けているなんて、思いもせず、俺はいつも通りに就寝準備をして部屋の電気を消した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る