2話 こんな近くにいたのか!?
【2-1】
昨日、あんな事があった翌日。11月にしては暖かい日だった。木枯らし1号が吹いた後だというのに。
俺はいつも使っているアレルギー鼻炎の薬をもらいに近所の病院に来ていた。土曜日はいつも混雑して閉口してしまうけれど、薬の処方箋をもらうだけなら我慢も出来る。
混雑した待合室の隅に立って、何げなく見回したときだ。
同じように部屋の隅のパイプ椅子に座っていた人物と視線が合った。
普段の生活でもそんなシチュエーションなんて、いくらでもある話だ。
でも、俺はその彼女から目を逸らすことができなかった。
見た目はまるで小学生の女の子。でも、白いブラウスの襟元に細いリボンを結んだ服装、背中までのロングヘアーには強烈な既視感をおぼえる。
これはどこかで会ったことがある。見た目とは違って、仕草や雰囲気は大人という不思議な魅力。
そして、彼女も俺を見て、何かを思い出したように息を飲んだのが分かった。
まさか……いや、でもいくらなんでもそれは無いだろう……。しかし、現実は物語よりも奇なるものだ。
『お会計の方をお呼びします。小田さん、
正直、その後は聞こえていなかった……。
会計を済ませて振り向くと、そこには、例の彼女が立っていた。
「あの……、小田君だよね……?」
「やっぱり……、あの竹下だよな……」
「うん……、久しぶり……だね」
「そうだね……」
先日から頭の中にずっと浮かんでいた彼女にこんなところで出会えたなんて。
いつまでもこんなところで立っていても仕方ない。再会の場所としてもあまりにも生々しすぎる。
「このあとの予定は?」
予定を聞いてみると、この後は特に無いということだったから、二人でお茶でもしようと落ち着いた。
駅前のカフェで、飲み物と軽食をオーダーして窓際の席に座る。
まだ昼食の時間には少し早いおかげで、店内はゆっくりとしていて、窓から入ってくる日差しが暖かい。上着を脱いでいないと暑くなってしまいそうだ。
「驚いたな。まさかと思ったけど、本当に竹下だったなんて」
「ごめんなさい。私も最初声かけられなくて……。本当に小田君か自信なくて……」
落ち着いてから話してみると、あの当時と声が変わっていない。女子は声変わりしないとはよく聞くけれど、それでも当時のままというのは驚いた。
「仕方ねぇよ。もう何年ぶりになるんだ?」
「うん、そうだね……、17年になる……?」
確か、あの同窓会での話は、4年生で転校したと言っていただろうか。それならつじつまも合う。
お互いのことを少しずつ話しているうちに、竹下のその後が少しずつ分かってきた。
小学4年生で転校というのは、実際には微妙な状況だったらしく、籍はあのまま学校に置きながら、病院の支援教室に移っていたということ。
そのまま治療とリハビリテーションの繰り返しが続いたため、中学生になるときに支援教室の本校である支援学校に入学したという形になっていたという。
「あの当時は本当に病院から出られない生活だったから、卒業アルバムも何も残っていないんだけどね」
だから、転校の記録もないし、先日の会で誰に聞いてもはっきりしたことを言えなかったのはこういう事情があってのことなのだと。
「せめて、卒業アルバムには名前くらい載せてもらえばよかったのに」
「うん……。でも、その時にはもう転校しちゃっているようなものだったし、集合写真にも載ってない私が名前だけあるっていうのも嫌だったから、辞退しちゃったの」
「そうだったのか」
途中で転校した自分の名前も小学校のアルバムには残っていない。彼女はそこに載る権利を持っていたのに固辞をしたというのか……。
俺がその当時の彼女の気持ちを理解するのには、もう少し時間が必要だったと気付くのはもう少し後のことだった。
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