笑顔の続きをまた見せて!

小林汐希

1話 記憶の中の同級生

【1-1】



「それでは、笹塚ささづか小学校、卒業15周年の同窓会を始めます」


 そんな会場のアナウンスで始まった。テーブルは大きく分けて二つ。


 そもそも、あの当時でも2クラスしかなかったんだから、それほど大きな会場も必要なかった。


「それでもよくこれだけ集めたな」


「まだ実家とか動いてなくて連絡しやすかったんしゃないか?」


「ここ数年、やたら話題だけは豊富だったから、それなりに準備していたんじゃないの?」


 そもそも、基本的には小学校から中学へはほとんどが持ち上がりでもある。そうなれば、それぞれの進路を変えたのは高校生以降。


 幸いにして自宅から大学に出たり、就職しても実家が変わっていないところも多く、連絡をとる方としてはまだなんとかなったらしい。


 このあと結婚などで名前が変わったりする前に一度整理しておきたかったという幹事の思惑もあったに違いない。


 今年でみんな27才、まだ当時の面影も残る顔もいればすっかり大人の仲間入りをしたのもいるだろうか、俺には正直それぞれがどう変わったのかは分からない。


小田おだ君?」


「うん、えと……」


「もう、嫌だな……。杉本すぎもとあや、忘れちゃった?」


「えっ? 杉本?」


 目の前にいるのは、ショートボブにして、メイクもバッチリ決めた女性。でも、話し口調から分かる。確か自分と最後に机を並べていたのは彼女だったから。


「あの当時はずいぶん迷惑ばっかりかけていて、悪かったな」


「ううん、小田君が転校してから、みんな気付いたんだよね。なんか抜けちゃった感じでね。何だったんだろうって」


「まぁ、もう昔の話だよ」


「小田君も変わったね。いろいろ大変だったって聞いたよ」


 そう、6年生の途中で転校した俺は杉本たちと卒業式を迎えてはいない。


 しかも、それまでに転校生は何人もいたけれど、親の海外転勤に伴う転校というのは前例が無かった。


 だから当時、正直クラスでも目立たない……。いや、きっと困ったさん扱いだった自分に、せめて卒業まで一緒にいてくれるように言ってくれた子もいた。そのうちの一人がこの杉本だった。


「いろいろあったけどな」


「先生から聞いた。中学で帰ってきて、学校に挨拶に来たときに本当に別人だったって。それ聞いて、みんなますます気まずくなっちゃってね」


「そんなの気にしなくていいよ。こんな奴だから、いまだにフリーなんだしさ」


 その言葉に、他のメンバーがすぐに反応した。


「えっ? 小田なんかモテる方じゃないんか? 帰国子女なんて?」


「男で帰国子女って言っても、聞こえよくないし、昔と違って数も増えてるから、そんなに珍しくなくなってる」


「そうなんだぁ」


 昔、海外赴任が珍しかった頃は、帰国すると特殊な能力をつけた人間のように見られたけれど、正直なところはマイナスの再出発となることの方が多かったような気がする。


 受験も『帰国子女』という枠を付けると、急に外国語のレベルが上げられたり、進学できる進路が限定されてしまいがちというのを経験したからだ。


 そのレールに乗りたくなければ、無茶を承知の上で、それまで受験の準備をしていた同級生たちと争わなくてはならない。


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