7-4 天に愛され、天に与えられ
4
僕たちは王城にある展望台の中央に立っていた。まるで世界の終焉のように
眼前でキウンが膝をつく。呼吸を荒くし、怨嗟のこもった
「……邪魔をするのか」
「誰のだい?」
アルテミスが意地悪を言う。答えなど知れているのに。
キウンは刀を具現化し、それを支えに立ち上がる。けれど、それもすぐに光の粒となって消え失せ、バランスを崩した。
僕は
彼の身体は軽かった。星なのだから当然かと思ったけれど、グレンの身体はもっと重量感があったように思う。
アルテミスが背後からキウンを
「彼は星の総意。中身なんてないよ」
「けれど、重さは……ある」
「キミが与えたんだろう?」
キウンの顔を
「ボクたちは自力で命とは何か――真理へと到達する。キミがいなくても、ボクたちは勝手に続いてゆくよ。ボクたちには良き理解者がいるのだから」
アルテミスと目が合う。僕は
「僕たちは罪を犯しました。けれど、それは罪なのでしょうか。生き永らえる手段を知りながら、運命に従うのが正しいのでしょうか。貴方が運命に固執する理由が僕にはわかりません。だって、貴方は星の総意なんでしょう?」
アルテミスが両手を高く掲げる。頭上で
僕の視線に気付いた様子でアルテミスが微笑む。わかった。これはキウンの縁だ。この世界で紡がれたキウンの縁が彼をかの地へと導いているのだ。そこがきっと彼にとっての
僕とアルテミスは肩を並べて橋を渡り始めた。
5
「我はルナの監視者。星の一生を監視する責務を担っている。
僕に抱えられながらキウンは言う。どうやら
「個より多を重んじるということですか?」
「それが総意なのだ。我の思考は星の総意。総意とは圧倒的多によって採決されるものである」
「それは総意ではありません。ただの多数決です。総意とは全ての者の意思。運命に抗う者がいるということを考慮し、思考に組み込めなかった時点で、星の総意としてのシステムは破綻しています。貴方は存在そのものが役割と矛盾しているんです」
「我が矛盾だと?」
心外といった様子ではなかった。心底意外といった様子だった。
「なるほど。
愉快そうにも聞こえる笑い声が天に
橋を降りれば、キウンと別れることになる。僕たちも星々に罵声を浴びせられ、ただでは済まないだろう。そうなる前に、平穏な
「キウン王、星々に宇宙の
「それはルナの存在意義を否定している。
「先ほどもお伝えしたように、それは個を
「この期に及んで言い逃れか」
「違います」
彼の発言は的を射ている。けれど、僕は言い訳したいわけではない。彼に考えてもらいたいのだ。どうして自身が星の総意であるのか。どうして矛盾した存在になってしまったのか。自身の“在り方”を問うてほしい。
「ルナの存在意義は星の一生を観測することでも、真理に到達することでもありません。それはきっと……キウン王、貴方の意思を形成することにあると思うんです」
「意思、だと?」
存在理由と矛盾した存在。それは一つの答えを示している。
「貴方は星の総意ではない。一つの星なんです。僕たちとは別の位相、別の座標系に位置する新たな命。そして、心を育ませるために天より与えられたものこそルナの規律であり、貴方の使命……星の総意として振る舞うこと、なんだと思います」
星の総意は感情を抱かない。混沌と化した感情が監視者というシステムに異常を
けれど、キウンは感情を抱いた。僕の発言を受け、恨みを抱いた。キウンではなくルナとして、一つの生命体として確立される
キウンは言葉を失った。人間
やがてキウンは僕の顔を見上げ、
「
僕は微笑を
「それは――思考の旅路をさせるためですよ」
可愛い子には旅をさせよ。地球にある
「貴方は、愛されているんですよ」
僕にはわかる。辛辣だった兄の言葉が、その真意が。きっと家に帰ったら、びしょ濡れの僕を見て兄は激怒するだろう。けれど、内心では心配するに違いない。悪口のような文句も、親のような
キウンが僕の顔を凝視する。
やがてキウンは
「それは――
それはまるで産声のように生命力に満ち溢れ、愛おしいものだった。
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