7-2 スタートライン
2
突如空間を裂いて僕たちの目の前へと降臨したキウン王は、
アルテミスが僕の前に立ち、手のひらに光の球を発現させる。あれはグレンと対峙した際に超巨大な剣を発現させたものだ。
「はは、ルナの規律を犯したボクが憎い?」
「憎しみなど皆無。我は
「待ってください。彼女は――」
僕が一歩踏み出すと、アルテミスは僕を手で制した。
「ボクの罪は人間であるキミをルナに導いたことさ」
やはり王は彼女がテラであると知っていた。ならば何故、人間である僕を断罪しないのか。
「ボクが消滅すれば、キミも消滅する。だからこそ、ボクだけで十分だったんだろう?」
「
「混沌に……?」
空間が切り替わる。やがてそこは見知った世界を映し出した。
ルナだ。僕たちは今、ルナの地上数百メートルに立っている。地上では星々が慌てふためている様子が見える。
「キミがボクの命を救ったからだよ」
僕は目を
「ボクがキミをルナへ導いたのは、キミが運命の分岐点に立っていたからさ」
「分岐点……?」
キウンへと目を向ける。彼は彼女の話を待つつもりのようだ。それがルナの王としての
「ルナでボクはボク自身を眺めていた。そして、ある瞬間を
「僕が……?」
「ボクは走馬灯を見た。そして、もう一人のキミの姿を見た。キミが用水路に飛び込み、頭を打って死ぬ光景を目の当たりにした。そこが運命の分岐点。だからこそ、ボクはキミをルナへと招き入れた。滅びの運命から脱するために」
アルテミスは
「ボクは我が身可愛さのためにキミを利用した。キミに危害が及ぶと知りながら、キミが関与しない数千年後の未来のために、キミを犠牲にした。ボクはね、そういう星なのさ」
「
静観していたキウンが不意に口を開いた。
「キサマは運命に抗った。結果、宇宙の歴史が、星の記憶が書き換わった。これは大事である。宇宙は予定調和でなければならない。変化は等しく破滅を意味する。総エネルギー量が規定値を上回れば爆発し、下回れば消滅するのだ。キサマは宇宙の計画を台無しにした。宇宙は滅びる。キサマの僅かばかりの延命のために」
ルナという星の魂が集う世界に入り込んだ僕の価値観が変わり、現実世界で死を
「せめて今ここでキサマらを
アルテミスは苦笑する。それは肯定を意味していた。
「確かに、ボクは悪いことと知りながら彼をルナへ導いた。そして、バルドやレナの最期を目の当たりにして
けれど、とアルテミスは首を横に振る。
「彼は無関係ではないにしろ裁かれる立場にない。せめて苦しむことなく一生を過ごしてほしかった。だからこそ、未知の回廊で全て手放そうと思った。そうすれば、ボクと共にキミからも辛い記憶が失われるから」
「ならば、
「彼が二度も助けてくれたからさ」
アルテミスがキウンへと強い意志のこもった
「彼に手を差し出された時、ボクに
アルテミスが光の球を握り潰す。光が指の隙間から針状に飛び出し、粒となって霧散した。そして、アルテミスはもう片方の手を僕へと差し出し、目を細める。
「ボクは生きたい。生き延びたい。運命に抗ったとしても、たとえそれが宇宙全体を滅びへ導く結果になったとしても、ボクの紡ぐ縁を宇宙に広げていきたいから。幸せをもっと多くの星々と共有したいから。キミは、どう思う?」
僕はアルテミスの手を取り、肩を並べる。二人の手に眩い光が宿る。
「……言ったはずだよ。僕にはまだやりたいことがあるし、やらなきゃいけないことがある。会いたい
僕は隣に立つ少女と同様に目を細める。僕の命は既に始まっている。終わるにはまだ早い。
「そのために生きるよ。最期まで生きて、今度は僕が命を
バルドが僕の“在り方”を問うてくれたように、僕も誰かの生きる
僕の“在り方”は他者と
「行こう! 運命の向こう側へ!」
僕はアルテミスと
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