6-5 ベストルート
6
「
王城を守護する
「地下牢にアイツはいる」
先行するグレンの背中が頼もしく見えた。一方で、彼と肩を並べ、城内へと駆けてゆくトーチャーはどこか心が落ち着いていないように見えた。喜びか、それとも戸惑いか。
門を潜ると、僕たちの服装は礼装へと変換された。王の
「
トーチャーは上着を脱いで
「んー? 確かに」
グレンも上着を脱ぎ捨て、シャツにスラックスという身軽な格好になった。僕も彼に
必ずアルテミスを助け出す。僕の目的のために。
『アナタには何ができる?』
セレーネから問われた。王城へ向かう直前のことだ。
どれだけ彼女を想っても、僕の祈りはセレーネには届かなかった。『まだ足りない』と言われたけれど、最早関係ない。最短ルートが見つからないなら、最難関ルートだろうと突き進むまでだ。僕の想いが足りていなくても構わない。
『……僕は、僕のできることをやります。できないことは、グレンさんとトーチャーさんに助けてもらいます』
ふふ、とセレーネは慈悲深く笑う。
『それがいいわぁ。できないことを考えるほうが楽かもしれないけど、できることを考えたほうが有意義だものねぇ』
セレーネは僕の手を両手で包み込み、柔和な笑みを浮かべた。聖母のような温かさが手から直接伝わってきた。
『アナタたちの可能性を、ワタシは知っている。だから、安心して行ってらっしゃい。見守ることは得意なの』
7
城内に入ると、異常を検知した甲冑の騎士が剣を構えて襲い掛かってきた。グレンが脚に光を
「コイツらは生きちゃいねェ。規律を守るための機構――お飾りなんだよ」
甲冑の残骸を横目に通過していると、グレンが事も無げに言った。以前にも彼らが人形だと言っていたけれど、その意味が
中庭に移動し、左手にある扉を潜って城内に入る。誕生祭の時に大ホールへと足を踏み入れたことはあったけれど、こうして客人がおよそ踏み入れることのない空間には馴染みがなかった。入ってすぐ正面に部屋への扉があり、
「こっちだ」
グレンが右手側の通路を進む。僕とトーチャーもそれに続く。どうして地下牢の場所を知っているのだろうか。そもそもどうしてアルテミスが地下牢に
「知らないのはアナタだけですよ」
それはトーチャーが僕の正体に気付いている何よりの証拠だった。
ルナは星の精が集まる空間だ。アルテミスが王城の
廊下の先に
「グレンさんッ!」
僕が鬼気迫る形相で呼びかけると、グレンは顔だけを振り返らせた。
「んー? ああ、わかった」
何がわかったのだろう。そう思った矢先、グレンが正面の甲冑へと回し蹴りを放ち、まとめて
「トーチャーッ!」
グレンは正面の敵を
「冷却レーザーシステム、起動します」
次の瞬間、トーチャーの両隣の床より
「彼らのために、力を貸していただけますか?」
トーチャーが誰にともなく問いかけると、冷却レーザーシステムと呼ばれた装置から青白い光線が放たれた。僕たちが通ってきた通路を埋め尽くす絶対零度の白は、
「ありがとうございます」
トーチャーが礼を口にすると、物騒な装置は光となって床に溶けていった。
グレンが道を
8
通路の奥を進むと、再び
「左だッ!」
グレンの指示に従い、僕は左手側に曲がる。正面には甲冑が群れを成している。僕は思わず立ち止まる。
僕からの目配せを受け、グレンが左右の壁を伝い、敵の間をすり抜けてゆく。甲冑の注意が彼へと向けられる。
奥の扉へ到達したところで、グレンは振り返り様にこちらへ向かい回し蹴りを放った。グレンの足に
背後では、トーチャーが右手側の通路で正面に手をかざしていた。通路を覆うほどの光の壁が出現し、それが徐々に前方へと進んでゆく。壁に触れた甲冑は向こう側へと押し返され、やがて奥の扉との圧迫に耐え切れず、身体の至る箇所にヒビが入り機能停止した。
「行ってください」
トーチャーが背後を振り返り言う。その技は相手の身動きを封じられる分、自らの動きも長時間封じられるのだろう。奥の扉から更なる増援が現れる様子を見て、僕は
「ありがとうございます! ご無事で!」
「ジブンは死にません。守るべき命がありますから」
頼もしい背中に敬意を払い、僕は奥の扉へと消えゆくグレンを追いかけた。
「……トーチャー、ですか」
駆け出す間際、背後からそう呟く声が聞こえた。
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