5-8 硝子ではない
8
小高い丘の上に鎮座する岩。その上にグレンが腰を掛けていた。眼前に広がる宇宙を
背後から歩み寄ると、気配に気付いたらしいグレンが振り返った。軽くお辞儀すると、グレンはこちらに来るように目配せをした。僕は誘われるがまま彼の左隣に腰を下ろす。バルドと出会った場所もここだった。不意に胸がきゅうっと締まる。
「……休んでいなくていいんですか?」
「んー?」
トーチャーとの闘いを終え、どれだけ時間が経過してもグレンの両腕が再生することはなかった。肩の付け根を見せてもらうと、元々腕など生えていなかったかのように皮膚で
グレンは休息をとらなかった。休息は即ち魂の休息であり、ルナでの身体再生に大きく寄与するとアルテミスが言っていたため彼に勧めてみたけれど、『要らねェ』と
あの戦いを通して負傷したのは僕だけだった。正確には、怪我が残っていたのは僕だけだった。トーチャーもまた
「休んでいるだろう? んー?」
グレンは理解に苦しむ様子で
「オマエは?」
グレンは僕の身体をじろじろと眺めまわした。値踏みするような視線を受け、僕は逃げるように彼から顔を逸らす。
「……平気です。こんなの、ただの
手のひらの擦り傷を押さえる。グレンはその傷痕すらも不思議そうに眺めていた。横目に見ると、彼は何事か言おうとして、しかし頭を
静かな時間だ。こうしてゆったりと過ごすのは久しぶりのような気がする。いや、ルナを訪れてからというもの、こういった時間は多く過ごしている。けれど、心穏やかな気分になるのは環境が良いからだろう。即ち、共に過ごす存在によるところが大きい。
僕は、しかしそんな心地好い環境にも緊張を隠せずにいた。
9
時は少し
トーチャーと決着をつけた後、グレンは僕を背負って水晶地帯へと向かった。負傷した僕を休ませるためだ。グレンのほうにこそ休んでもらいたい僕と
そこにふらりとアルテミスが現れた。そして、平生と変わらない快活な笑顔と共にこう言った。
「愛の為せる技だね。いや、
愉快そうにアルテミスが笑った。僕は彼女があの場にいたことを察知し、寝台から立ち上がり声を荒らげた。
「何でッ――!」
「助けなかったのか、って? 酷なことを言うね。言ったはずだよ、誰も星同士の衝突に巻き込まれたくない、って。それはボクも同じ。下手をすれば大怪我を負う。いや、上手くできたところで王によって寿命を縮められる可能性がある。良いことなんて、何もない」
僕は拳を握り締めた。まるでグレンがどうなってもいいと、アルテミスにとってグレンはどうでもいい存在だと言っているように聞こえたからだ。
アルテミスは僕の考えを見透かしたように肩を
「ボクだって鬼じゃない。助けを求められれば悩む素振りくらいは見せる。けれど、今回は話が別だ。グレンは助けどころか、生き延びることすら望んでいなかった」
どういうことかと目で
「トーチャーがグレンを破壊すると覚悟を決めたのは、彼の子供たち――知的生命体が母星消滅の因子となり得るグレンの破壊を望んだから。彼は我が身を守らんとする子供たちに寄り添い、行動を起こしたのさ」
トーチャーの周囲を浮遊する兵器が思い返された。人工的なあれらの機器類はやはり知的生命体により創り上げられたものなのだろう。それがトーチャーの意思を介して、この世界にまで色濃く影響を及ぼした。
「結局のところ、みんな我が身可愛さに行動している。それは
「そんな、ことッ……!」
僕が声を荒らげると、アルテミスは驚いた様子もなく困ったような微笑を浮かべるばかりだった。
グレンは幾度となく僕の身を守ってくれた。ヴェルのことだって親身になってくれた。彼は誰よりも他者を
アルテミスは、しかし確信めいた調子で言う。
「キミに彼の考えはわからない。だって、
もっとも、とアルテミスは不敵に笑う。
「キミの答えが定まらないうちに
まるで僕の
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