5-2 背中越しの口論
2
「星の衝突なんて日常茶飯事。宇宙全体で考えれば
そう語るアルテミスは眼前の光景を静観していた。視線の先では、二人の男性もとい星が互いに
一方、
「
どのような事件、事故であろうとも、被害者の心境を考えればつまらない出来事だったと
僕は周りを見渡した。見晴らしの良い
「だから、誰もいないの?」
この場には僕とアルテミス、そして眼前の二人しかいない。星同士の衝突が
「巻き込まれたくないのさ。飛び火すればタダでは済まない」
「どういうこと?」
眼前の男性が
「何だよ、文句があるならかかって来いよッ!」
(あ……グレンさん)
グレンが
「文句などありません。言いがかりです」
「何だとッ!」
やはりグレンではないように思える。彼はこんなにも短気ではなかった。口調は悪いけれど、相手の話を聞くし、納得できれば修正するし、もっと聡明だった。
僕が一歩前に歩み出ると、アルテミスは手で制した。隣を見遣ると、彼女は
「物理的に考えてごらん? 衝突に割り込めば怪我をする。ボクたちだって同じことさ。争いなんて百害あって一利なし。割り込むだけ損だとわかっているのさ」
冷静
「前に君とグレンさんが争っていた時、僕は割り込んだけれど、このとおりピンピンしている」
アルテミスの拳はとても効いたけれど。思い出すだけで
「あれは衝突じゃない。問題解決へ向けた議論さ。だからこそ、ボクたちはこうして会話できている。星の運命を変えたとなれば、キミはとっくに王の
アルテミスとグレンとの闘いが衝突だったなら、そこに介入し闘いを中断させた僕は彼らの運命を変えた大罪人ということなのだろう。星の一生を観測し続ける世界、ルナ。この世界で唯一の規律があるとすれば、それはきっと星々に干渉しないことなのだろう。
「けれど、このまま衝突したら……二人は、タダじゃ済まないんだろう?」
「そりゃそうさ。星が衝突すればどちらかが生き残り、どちらかが滅びる。あるいはどちらも、ね」
一触即発の雰囲気を前にして、僕は唾を呑んだ。
運命を変えてはならない。だからこそ、僕たちは宇宙に手を伸ばすばかりで一向に彼らに触れられないのだろう。けれど、だとすればレナの祈りを妨げた僕は大罪人なのだろうか。そのせいでレナの恩恵を受けるはずだった星々の余命は短くなった。あるいは、それすらも運命に組み込まれたということなのだろうか。
わからない。けれど、衝突が星の崩壊に
尚も一歩踏み出す僕を見て、アルテミスは手を引っ込めた。そして、僕よりも先を進み、グレンとトーチャーの間に割って入った。
突然の
「ん-? 何?」
張り詰めた緊張感の中、アルテミスは不意にグレンと腕を組んだ。突拍子のない行動にグレンが目を
「もぉ~グレン~ウチとの約束ぅ、忘れたわけちゃうやろなぁ~???」
トーチャーが呆れた様子で肩を
「約束を忘れるとは、いただけませんね」
「おい違うッ! これは罠だッ! ハニートラップだッ!」
「人間の真似事ですか」
グレンらしからぬ物言いだった。トーチャーが
「おい待てッ! まだ話は――!」
「浮気かぁ~? うつつ抜かしとんのかぁ~?」
「うるせェッ! 気持ち
「おかしいかぁ~? おかしないよなぁ~? ウチ、エレベーター好きやんかぁ~? ほらなぁ~?」
発音の問題ではないと思うけれど。しかも、例文の意味がよくわからない。
アルテミスがグレンの腕を拘束したまま、こちらへと目配せをしてきた。
アルテミスの目が血走り始めた。顔面崩壊しそうだ。そこで
「なぁ~これからどこ行くぅ~? ウチくるぅ~?」
背後から聞こえた声に総毛立った。
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