第十四章 開戦編

第191話 ルベ家との会合

 四月五日。

 王都陥落から十二日後。


 その日、空には灰色の雲が張っており、気分爽快とは言えない天気だった。


 俺は、王城の会議室で、ミャロと一緒に茶を飲んでいた。


 部屋の隅には、ティレトも控えている。


「ユーリくん、やはり開けてしまいましょうよ。あまり意味がありませんし」

 ミャロは、机の上の封筒を見ながら言った。

 封蝋がしてある。

「いや。連中とは腹を割って話したい。やっぱり態度に現れるだろ」


 そう言っているうちに、扉が開かれた。

 現れたのは、キエン・ルベとリャオ・ルベだった。


 俺は椅子から立って出迎えた。


「お久しぶりです。キエン殿」

「うむ……この度はなんとも、大変であったな」


 キエンは、なんとも難しい顔で言った。

 どこからお悔やみを言ったらいいか、どう俺に対したらいいのか、よくわからない様子だ。


 リャオのほうは、飄々とした顔で俺を見ている。

 一瞬、ミャロのほうに目をやったのを見逃さなかった。


「ええ、なんとか生き延びられました」


 俺はキエンに手を差し出す。

 キエンは握手に応じて、ギュっと手を握った。

 油っけのない、カサついた老人の手だった。


 次にリャオにも握手を求める。


「上手くやったな、ユーリ」

「いいや、失敗ばかりだったさ」


 リャオと握手を交わすと、俺は椅子に座った。

 リャオは訝しげな顔で俺を見ている。

 失敗ばかりというのが腑に落ちなかったのだろう。


「さ、どうぞ座ってください。話しやすい席に」


 俺がそう言うと、キエンとリャオは並んで座った。

 上座下座でいうとメチャクチャになるが、俺の左隣にはミャロが座っているので、仕方がないだろう。


「して、手紙に書かれていた内容だったが」


 俺は、十字軍の話を手紙に書き、キエンを呼び出していた。

 リャオが一緒なのはオマケだ。


「これが、魔女たちが教皇領と交わした誓約書です。既に街中に写しを貼り出してありますが、その原本です」


 俺は、シャルルヴィルの家から持ってきた書類を机の上に置いた。

 それは、このような内容だった。



 *****



 誓約書



 教皇領は、十字軍クルセイダーズを主催する主権者として、シヤルタ王国魔女集団に対して以下のことを要求する。


 1:シヤルタ王国王家をなんらかの方法で絶滅させるか、あるいは魔女集団の傀儡となる王族を立て、政権交代をすること。

 2:交代後の政権を、十字軍の到達まで維持し、十字軍に対する防衛体制の整備を妨害し続けること。

 3:十字軍によるシヤルタ王国への攻撃を支援し、要請があらば王都シビャクの港を開放し、十字軍艦隊を受け入れること。

 4:テルル・トゥニ・シャルトルを始めとした、金色の髪を持ったシャン人をできるだけ確保すること。ただし1を達成する上で障害となる場合はその限りではない。

 5:異端者イーサ・カソリカ・ウィチタを逮捕・収監し、後に教皇領に引き渡すこと。


 上記1~5を達成した場合、教皇領はシヤルタ王国魔女集団に対して、以下のことを約束する。


 1:魔女集団の人員最大五千名に対するクラ人と同等の権利の付与。

 2:魔女集団の人員七名に対する公爵位の付与。

 3:魔女集団の財産に関する権利の保護。

 4:魔女集団の土地の所有権の永続的保護。


 以上


 上記を持ってして十字軍クルセイダーズとシヤルタ王国魔女集団の間の契約とする。


 十字軍代表 エピタフ・パラッツォ


 魔女集団代表六名


 ヴィヴィラ・マルマセット

 シャルン・シャルルヴィル

 キーグル・カースフィット

 ジューラ・ラクラマヌス

 グーラ・テンパー

 キキ・エンフィレ



 *****



「成る程」


 キエンが言った。


「とんでもない屑どもだな」


 リャオも言う。二人共、顔には嫌悪感が滲んでいた。


「さて、キエン殿。ここからは対等に話させていただく」

「……ん? うむ。ユーリ殿はもはやホウ家の主なのだからな……もちろん、構わぬ」


 今まで敬語だったからな。

 とはいえ、これからはうやうやしくしていてはやりにくい話になる。


「キエン殿、十字軍は来ると思うか?」

「……それは、わからぬ。こうして失敗したのだから来ぬかもしれんし、混乱していると見て来るかもしれぬ。実際、女王が倒れて王都は混乱の極みにあるわけだからな」


 実際のところはそうでもない。

 元々、女王は俺を英雄視するように民衆に仕向けていた。

 そして、俺はその人物像が汚される前にビラを撒いた。


 民衆は、キャロルの不在を不安がりつつも、ホウ家という新しい統治者をおおむね歓迎している。

 官僚機構は破壊されてしまったから、今年の徴税などのことを考えると頭が痛いが、少なくとも治安については急速に回復しつつある。


「その答えがここにある」


 俺は、机の上に置いてある一封の封筒に掌を置いた。

 蝋封は砕けていない。


「それは……?」

「俺は、暗殺があった翌日、アルビオ共和国への船便に十字軍の動向を調べるよう一報を送った」


 それがようやく届いたというわけだ。


「通常、往復路に二十日はかかるのだが、風が味方して、十四日で往復できた。昨日到着したので、貴殿を呼び出したというわけだ」


 十四日での往復というのは、この季節の風の具合だと五回に一回ほどの幸運らしい。

 運が良かった。


「計算が合わぬ。ユーリ殿が王都を陥落せしめてから、まだ十日余りしか経っていない」

「やつらが十字軍と通じていることは、状況が教えてくれていた」

「ユーリくん。ユーリくんにとっては明明白白な事柄でしょうが、他の人にとってはそう簡単に理解できることではありません」


 ミャロが言った。


「あらぬ誤解を受けてもつまらないので、ボクからご説明しましょう」


 ミャロが、そう判断した理由と根拠を単純明快に説明する。


「……というわけで、ユーリくんはその日のうちに、魔女が十字軍と手を組んでいることを察していたわけです」

「ふむ……」

「ともかく、その返信がここにある。見ての通り、開封していない。開けようじゃないか」

「なぜ、開かずに俺たちを呼んだんだ。自分宛ての手紙なのだから、読めばいいじゃないか」


 リャオが言った。


「どのみち、十字軍に関しては、ルベ家の協力がなければ、どうにもならない状況だと俺は見ている。だから、先に結論を得てから話すのではなく、共に考えようという意味で、こうして開封を待った」

「成る程」


 蝋封が砕けていないことがその証拠。ということなのだが、実のところ不確かな話だった。

 蝋封など砕けてしまっていても、新たな封筒にいれ、新たな蝋封をすれば、簡単に偽装はできてしまう。


 蝋に押されているスタンプはククリリソン家のものだが、印鑑と同じで偽造できてしまうし、確かな証明にはならない。

 簡易的な証明ということにはなっているのだが、証明性に関して言えば、蝋封よりもそれを運ぶメッセンジャーの信頼度のほうが重要だ。


「まあ、今日来なかったら開けていたがね。さ、開封しよう」

「うむ」


 俺は封蝋を破り、手紙を開封した。


「俺から先に読ませてもらう。これは社の業務連絡も兼ねている。とんでもない極秘事項が入っていたら困る」

「構わぬよ」



 *****



Ⅰ:一般事項


 印刷聖典書について

 新装丁聖典書は好評。裸の聖典書と合わせて注文増です。(別紙参照)

 旧型(便宜上そう呼びます)聖典書の注文は三分の一になりました。


 カルルギ派の大司教からの抗議は更に大きくなっている模様。

 イーサ先生からの書簡に反論書簡を貰ったので添付しておきます。


(暗殺事件について、にわかには信じられないのですが、もし本当なら女王陛下のご冥福をお祈りいたします)



 Ⅱ:情報


 三度目の十字軍結成の号令が発せられた。


 これは海峡を渡って届けられた情報で、緊急の伝書鳩によってアルビオ共和国にもたらされた。

 こういった十字軍の報を聞く役のアルビオ共和国のスパイは、ユーフォス連邦に根を張っているのだが、諸侯会議の結果、とりあえず参加することに決めたそうだ。

 今回は教皇の公認があり、教皇領軍の参加が確実となったので、間違いなく実施されることが確定したので、重い腰を上げたということらしい。


(アルビオ共和国首脳は、会長からの説明により陰謀との関連性を聞いて、安心している模様。まあ大変だろうけど頑張ってね、という感じです)

(アルビオ共和国の仮想敵国はユーフォス連邦なので、諜報面で重視しているのでしょう)


 号令が例年より相当遅いため、兵站などの準備を練る時間が短く、今回の十字軍は時期的に例年よりズレるだろう、という見込みあり。



 Ⅲ:商品


 指示通り、金貸しから大金を借り入れして銃砲と火薬を大量購入。

 利子は年利8%です。

(金貸しにお尻を触られました。腹が立ちました)



 Ⅳ:船舶


 ホランドⅩⅤ号、マミヤⅩⅥ(小型探索船)の引き渡し完了。


 商品を積んで帰港。


 新造艦の建造については、建造費を銃砲購入費に充ててしまったため商談停止中。



 *****



「ま、そうなるよな……」


 と、俺はひとりごちた。

 十字軍が中止されていれば、それに越したことはないので、がっかりした。


 腕は振り上げられたということだ。

 一度振り上がったのなら、下ろす他ないのが戦争だ。


 ま、最近運も悪いし、こうなるよな。

 紙をキエンのほうにやって、同封されていた別紙のほうを読んでおく。


 やっぱり装丁をデザイナーに任せたのは正解だったな。

 結構儲けが増えるんじゃないかこれ。

 まあ、もはや儲けがどうとか言っていられる状況でもないが……。


「どうやら、今年中に来るようだな」


 読み終わったキエンは、リャオに紙を渡した。


「そうだな」

「もちろん、ルベ家は戦う。うちは一万二千の兵がいる」

「ホウ家軍が一万六千。第二軍が一万千、第一軍が七千。合わせて四万六千。だが、第二軍はクズみたいなものだ。三分の一くらいに見たほうがいい」

「第二軍は、今どうしている」

「一般兵には、内乱罪を押し付けて、一年軍務をしたら特赦をくれてやると言ってある。ホウ家の上級兵たちを付けて、ホウ家領や王領の兵舎に入れて、死ぬほどしごき上げている最中だ。第一軍も含めて、立場だけで将校をやってた女は全員排除した」

「十字軍が来るまで数ヶ月、訓練をしてものになるかどうか……」


 まぁ、それが問題だな。


「元々戦争で戦うために兵隊をやってた連中じゃない。魔女の手下をやって、楽して威張って金儲けしたいという奴らだ。とりあえず戦争には駆り出すが、まぁ訓練しても普通の半分くらいの働きしかしないだろう。となると、五千五百減らして、四万飛んで五百くらいの兵力と見たらいい」

「前回の敵の総数は……八万程度だったか。ボフとノザの助けがなければ、戦いにならんな」

「幸いなのは、猶予がまだ二ヶ月から三ヶ月ほどはあるということだ。常識的に考えて、大急ぎでもそれくらいはかかる。各国への根回しに、兵站の準備。全てこれから始めるのだからな」

「うむ……そうであるな」


 キエンも同意見のようだった。


「まず、その間にボフとノザを取り潰す」


 俺は、キエンに紙をやった。



 *****



 契約書



 七大魔女家は、ボフ家頭領にして代表者オローン・ボフに対し、以下のように契約をする。


 1:王都に変事ありし時、ボフ家は王家天領に軍を進めぬこと。

 2:ボフ家は、ルベ家の領地通過を許可せず、進行を妨げること。

 3:ルベ家が海洋を使って南下しようとした時、その進行を妨げること。


 七大魔女家は、以上3項が守られた場合。以下の条項に記した待遇を約束する。


 1:ボフ家の人員最大二千名に対するクラ人と同等の権利の付与。

 2:ボフ家頭領の公爵位の授与。

 3:十字軍による征服後の、ボフ家の封土の安堵。

 4:武装自衛権の保有。


 以上


 上記を持ってして、ボフ家と七大魔女家との間の契約とする。


 ボフ家代表 オローン・ボフ


 魔女集団代表六名


 ヴィヴィラ・マルマセット

 シャルン・シャルルヴィル

 キーグル・カースフィット

 ジューラ・ラクラマヌス

 グーラ・テンパー

 キキ・エンフィレ



 *****



「あやつら……」


 キエンの目は怒りに燃えていた。


 魔女の裏切りが分かった時より怒っていそうだ。

 ルベとボフは隣近所だからな。


「見ての通り、あいつらはゴミだ。頭領を王城に呼び出して殺す」

「殺して、軍集団はどうするのだ」

「二、三ヶ月もあれば、なんとか吸収できるだろう。全てが大急ぎになるがな」

「むう……だが……」


 キエンは乗り気ではないようだ。


「こんな約束をして、戦う前から諦めちまうような奴が大将の軍団は、信頼できない。要所に置いて、動くかな、動かないかな、動いてくれないかな、なんて様子伺いしながら戦うのは馬鹿らしい」


 連中は、前回の戦争でも消極的で、ほとんど戦わなかった。

 とてもじゃないが、頼りになるとは思えない。


 もし勝ったらの話になるが、一度戦わせたら、今度は裁きの話ではなく、恩賞の話になるのも問題だ。

 どうせ役に立たないのなら、今のうちに殺してしまったほうがいい。


「だが、戦いになる」

「ビラを大量に撒く。オローン・ボフを王都に招き入れたあとでな。そのあと、ホウ家とルベ家で北と南から挟撃する。さほど抵抗はあるまい」

「むぅ……」

「ただ、問題はノザ家でな。ボラフラ・ノザは、多少は頭が切れる男だ。同じような紙はあるが、これは念書の形式になっている。魔女側からの一方的な約束という体で、ボラフラ・ノザの署名も押印もない」


 魔女にこのような双方向の契約書を渡すことの危険性を知っていたのだろう。

 後々脅しの道具にされかねない。


 念書の形式であれば、魔女側で100%偽造することができる。

 あとは自分が持っている念書を焼き捨てて、「魔女の陰謀に巻き込まれただけだ」と言えばよい。


「私はあれを良く知っている。心配性な男だ。軍を統べるものとして資質があるわけではない」

「オローン・ボフのほうは召喚に応えてノコノコと現れそうだが、ボラフラのほうは来なさそうだな」

「うむ。あれは頭のいい小心者ゆえな。来ないだろう」


 やはり、キエンもそういった意見のようだった。


「まあ、いろいろやりようはある……。どっちみちオローン・ボフを殺してからの話だ。自分以外が全て敵に回ったあとのほうが、曲がりやすくもなるだろう」


 問題は、そのあとの十字軍との戦い方なんだよな。

 さて、キエンが乗ってくれるかどうか。


「その後の十字軍だが、確実に勝ちたい。敵が十万人いようが、十中十勝てる戦いをしたい。今度は、負けたら終わりなのだからな」

「む? ……まあ、それができたら一番良いが」


 キエンは訝しげに言った。


「そのために、決戦地は王都の北を考えている。ルベ家には、十字軍と戦わず、軍を温存したまま通過させてもらいたい」

「――なにっ?」


 案の定、キエンは気色ばんだ。


「領民なら避難させればよい。三ヶ月もあるのだ。それほど難しくはないだろう」

「だが、村が焼かれる。ミタルを手放せというのか」

「十字軍とて、ミタルのような都市を粉々に粉砕していくのは骨が折れる。戻ったあと、修復すればいい。そのための費用は出すつもりだ」

「そんなわけに行くかッ」


 リャオが口を挟んだ。


「ミタルは我々ルベ家が代々守り継いできた都市だ。それをむざむざと焼かれろというのか」

「なら、勝手にするといい」


 俺は言った。


「ホウ家は手を引かせてもらう。勝手に戦うといい」

「なんだと?」

「なっ……!」


 親子揃ってびっくりしている。


「現有戦力では、北の国境付近で勝つのは難しい。俺はそんな賭けには乗らない」

「なにを子どものようなことを言っている。一致団結して戦わねば……」


 キエンが益体もないことをいい出した。


「キエン殿。ならば聞くが、我々の戦力の中で、本当に頼りになる軍団は、どれくらいある?

 ホウ家軍、ルベ家軍。近衛の第一軍も、まあ指揮系統の混乱で一つ落ちる状態だが、オマケで入れてやろう。


 総勢三万と四千だ。

 クラ人は、まあ最低でも六万くらいは来るだろう。前回は八万だったな。


 その三万と四千、クラ人の軍に比べて、意気軒昂、男は皆が怪力無双という強兵か?

 そんなことはないな。前回の戦いでは、ごく普通に歩兵同士の押し合いで負けていた。

 キエン殿。ルベ家の軍も同様、歩兵に関しては押されていたと聞く。

 向こうは銃器を大量に配備していて、こちらは槍を持ったり剣で戦ったりするだけ。そりゃ向こうが勝つに決まっている。


 第二軍、一万と千名。ボフ家軍、九千名くらいだな。ノザ家軍は八千名程度だ。あそこは土地が悪いからしょうがない。

 総勢二万と八千。そいつらはもう、クラ人の軍より大幅に格が落ちる。


 二つ合わせて六万と二千。


 逆に聞くが、キエン殿。国家存亡、種族絶滅を賭けた戦いで、この状況で何の策もなく決戦に挑むのか?

 頭を使って実行する工夫といえば、全軍に飯をたらふく食わせて、戦いの前に喝でもいれるくらいか?

 向こうにはない、ご自慢のカケドリと鷲がいるから勝てるはずだ。か?


 それで戦うつもりなら、もう何も言わない。勝手にやるといい」


 人事を尽くしても、どうにもならない事というものはある。

 これが現実だ。

 そんな賭けに乗るくらいなら、自分たちだけで撤退戦をして、少しでも多く新大陸に逃したほうがマシだ。


「では、王都まで下がれば勝てるというのか」

「勝てる。俺はそのために策を練っている」


 まあ、勝てなかったとしても、そんときには、たぶんルベ家もボロボロなわけだし。

 信じさせておいたほうが得だよな。


「具体的には、どのような?」

「もう実行しているだろう。王都を攻め落とすのに、第二軍を保存したのが、その一環だ。それに、こうした書類が紛失することなく揃っているのも不思議には思わなかったか? 策を弄して魔女を殺す前に取り上げたものだ」


 考えなしで第二軍を打ち破っていたら、どうなってたか。

 包囲殲滅して何千の兵を殺し、死体の山の前で高笑いしても何も益するものはなかったはずだ。


 魔女を問答無用で焼いていたら、ボフ家とノザ家と密通していた証拠も手に入らなかっただろう。

 一ヶ月もあとにシャルルヴィルの隠し部屋を見つけたって、もう手遅れだった。


 それを考えると、本当に恐ろしい。


「ユーリ殿、我々がミタルを手放すのであれば」

「親父殿っ、本気かッ!」


 リャオがキエンの膝を揺すった。

 ミタルに関しては、かなり思い入れがあるらしいな。


 だが、別に壊れたものは直せばよいだけのこと。

 人命のように、取り返しのつかないものではない。


「リャオ、お前は黙っておれ……。ユーリ殿、ミタルを手放すのだとすれば、それなりの理由が要る。なぜ王都でなければ駄目なのか。それを説明してもらわなければ、納得はできかねる」


 まあ、そりゃそうかもな。


「では、話そう。聞けばきっと納得してもらえるはずだ」

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