第164話 懺悔
名門氏族でない彼は、彼女らの思惑に都合よく使われることもあったのだ。
しかし、真備も彼女らを利用した。このような関係は名門氏族にとって面白いはずはなく、真備は名門氏族に疎まれることになった。それでも彼は、最後まで彼女らの側にたって彼女らを支え続けた。
そのことは、氏姓制度が色濃く残る当時としては危険を通り越して冒険といっていいだろう。それでも真備が彼女に従ったのは、かつての自分の教え子が可愛くてしょうがなかったからだろう。
たとえ身近にいたとしても、決して手がだせない高貴で魅力的な女性、自分にはとうていつりあわない女性と心ではわかっていてもどうしても、従ってしまうのだった。
おそらく真備は、こうつぶやいたに違いない。
「げに恐ろしきは女子じゃ。美しい女子が政をおこなえばわしとて理性が狂い冒険をしてしまう。女性の発想力、行動力はどんな男にもかなわない」
また、こうもつぶやくいたかもしれない。
「しかし女子とは実にけなげなものよ。人をいとおしむ気持ちや信じる道を突き進む心は我々男にはかなわない」
さらに、こう呟く。
「わしは阿部さまを救うことができなかった」
真備は、後悔していた。称徳天皇の家庭教師であった真備は、彼女の娘時代もよく知っていた。
普通の少女であった称徳は、家庭の家庭の思惑と外部のしきたりによってまつりあげられた人となっていった。
神に等しい存在「聖女」特別な人間にされたのだ。真備は、その過程において知らぬまにそのような教育をしてしまい彼女を追い込んでいたのだ。自分の行動や指導は、結果として間違っていた。
他の古典的な物語と異なり「竹取物語」を読むと、一般的な童話にありがちな 翁や媼へのあたたかい見方がない一方、作者のかぐや姫に対する強い思いが感じられる。
これもどこか不思議な点だと思っていたが、かぐや姫に対する慈しみ、懺悔がこめられていたのだ。
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