第18話

道祖王廃太子も、仲麻呂の紫微内相抜擢もすべて孝謙天皇の名において行われている。

しかし仲麻呂の出世が、すべて光明皇太后の直属機関である紫微中台がらみであることからみれば、これは女帝が積極的にしたことでなく、母である皇太后の強い希望で行われたものだと考えられる。

しかし、何故光明皇太后はそこまで藤原仲麻呂に肩入れしたのだろうか。他の娘との子供がいる聖武と違い、彼女の血を受け継ぐものは娘の孝謙天皇だけであった。

しかし唯一の一つ種は、天皇制のしきたりによって結婚できなくされてしまっていた。これでは自分の血は娘の代で終わってしまう。このような天皇制を、光明皇太后はどうにかして変えねばならなかった。このような伝統にとらわれない、中国の最新の制度を熟知した人物にうまく変革に誘導させねばならなかった。

彼女は娘の孝謙天皇が子供が生める制度に変革し、しかもその子供が天皇になれるようにしたかった。それには日本の天皇を、中国のように天子が自由に政策を

立案し実行できる制度に変えることを期待して仲麻呂を重用したのだ。

しかし、それは従来の天皇制のしきたりを守ろうとする氏族の反発をまねいた。朝廷と紫微中台は、対立した。朝廷の長である孝謙天皇は、板挟みで苦しんだ。しかし、孝謙は尊敬する母を助ける選択をした。彼女も、母の変え方が理解できたからだ。

母光明皇太后は、美しく聡明だった。不条理な天皇制に、安易に屈する母ではない。母の天皇制の変革の動機は、不純なものだが孝謙は将来の天皇のためにも今の制度を変えるのはよいことだとかんがえていた。この時の朝廷は天皇と豪族の連合政権だった時の昔のしきたりが色濃く残したもので、天皇は人事すらも一人で決めれなかった。

日本の天皇を中国の皇帝のように全ての権限を超越した人物にしようとする試みが紫微中台新設であり、仲麻呂の重用だったのである。

仲麻呂は、中国の天子のように天皇が何人にも縛れないよいにするための機関と制度をつくる任務の責任者だった。

その権限を利用して、光明皇太后はすでに自分の死後のことまでを考えていた。彼女の血が繋がっている女性天皇の孝謙を結婚させ子供を産ませる。子供を生む天皇がいてもいいではないか。もし問題と思われたなら一旦孝謙は退位はするが、孝謙の子供は後には天皇になる。その間は中継ぎの天皇が即位するが、その天皇には大炊王のよう地盤が弱くお飾りにできる人物を選ぶ。

光明皇太后はあくまで自分の血統が天皇を受け継ぐことにこだわり、その手段として仲麻呂を登用して変革を実行した。

しかし、彼女には真備や玄肪ねのように日本のために改革するという理念が全くなく自本位の改革だったことが問題だった。

彼女は、この計画を信頼する甥の仲麻呂に話し了解をえていた。彼女の仲麻呂の重用は、あくまで自分の血統を天皇に続かせるための手段にすぎなかった。

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