第4話
それに、普通の女よりも訳あり女のほうが自分が意のままに操れることができるのではないかと考えを改めなおすようになっていた。
王皇后は、密かに尼寺へ行き武照に会った。王皇后は、武照がまだこの世を諦めていないように感じた。彼女は、まだ美しい。
しかも彼女は、お上よりも年上だ。もし今、お上に愛されても老けるのも早い。いづれ、お上も飽きて若い女に走るだろう。
彼女が、だいぶ年上なのも皇后には都合がよかった。皇后は、案外うまくいくのではないかと予感した。皇后は、やや命令口調で武照に還俗を命じた。
「髪を伸ばしやれ」
「でもわたくしの出家は、勅命によるものでございます」
平伏して、武照は答えた。
「ではそなたはこの世になんの未練もないであろうな」
皇后の質問に、武照は答えることが出来なかった。
「そうであろう」
と皇后はうなずいて言った。
「そなたはまだ若い。まだ悟りなす年でない。
それに、こんなに美しいではないか」
「わたくしは、もはや死んだ身でございます」
「死んだつもりで生き返ってもらいたいのじゃ」
「と、申しますと」
「わたしは、肅淑妃をお上から遠ざけなければならぬと思っています。ついてはそちに手伝ってもらいたい。その為の還俗じゃ。死んだつもりならどのようなことでもできるであろうぞ」
武照は、警戒して答えた。
「死人が復活するなんてあり得ません。
皇后さまが許しても、お上が許してくれるとは思いません」
皇后は、とっさに嘘をついた。
「お上は、当然了解しておる。その点は大丈夫じゃ」
「お上が許しても、世間が許しません」
武照は後宮というところを知っている自分が戻るには、お上と皇后に守ってもらうしか生きていけない。皇后は、その質問が気にいった。
「わたしはそなたを全力で守ります。
あなたがどんな窮地に陥っても見捨てません。あなたの家族に手出しさせることは絶対にさせません」
皇后は、武照に顔を近づけた。皇后の呼吸が武照の耳のあたりにかかり、彼女は肩をふるわせた。
「なにもおそれることはない。
なにをするか、わたしが教えてしんぜよう」
皇后はそう言ってほほえんだ。(愛いやつじゃ)皇后は武照が普通の女と思っていたのが、そもそもの間違いであった。(なにをするか教えられなくても知っているわ)武照は心のなかでそう答えていたのである。
「出家も勅命なら還俗とて同じことじゃ」
皇后はうまくいったと満足し、宮殿に帰っていった。その時後宮に帰った武照こそ、後に武則天となる。
彼女はその後あらんかぎりの陰謀をめぐらせ、ついに唐を簒奪、周の初代皇帝となった。
中国初にして唯一の女性皇帝に、周辺の国々に大きな影響を与えた。
日本も例外でなく政治や経済だけでなく思想にもかなりの変化をもたらすことになった。この激変をこの目で見てきた二人の若者が日本の政治体制を変えていくことになる。
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