第3話 薬とお菓子作り

 俺は朝から張り切って出かけた。斗麻の病気が治せるかも知れない可能性が出てきたのだ。早く前世のように、また2人で遊べるようになりたい。

 トトの実を皮まで加工して、それをどうやって売るつもりなのかもよく分からなかったけど、斗麻が言うならきっと大丈夫だ。


「おはよう、リュート。なんだか機嫌がいいね?ケガはもう大丈夫なの?」

 ユーリが嬉しそうに駆け寄ってきながら話しかけてくれる。

「ああ、もう大丈夫だ。母さんが、俺は父さんに似て頑丈なんだろうって言ってた。

 たんこぶ1つ出来ただけだってさ。」


「確かに、リュートのお父さん村で一番体が大きくて強いもんね。リュートも将来お父さんみたくなるのかな。」

「どっちかって言うと、ユージンのほうがなりそうだけどな。俺は毎日ご飯を取られてるから、あそこまで大きくなれる気がしないよ。」


 ユージンとレイは、今日もマーテルと別行動するみたいだ。

「今日はどうするの?」

「今日はトトの実をたくさん集めたいんだ。それと、トーマが縄に出来そうな枯れ草とかを、たくさん集めてくれって。」


「──トーマが?珍しいね。」

「ああ。トーマの薬になるらしいんだ。

 トーマを早く元気にしてやりたくて。」

「そうなんだ!それは僕も協力したいな、2人で頑張ってたくさん拾おうね!」

 ユーリが笑顔でそう言ってくれる。


「あ、でも、トーマが、木の枝になってるやつを取ってきて欲しいって言ってたんだ。そうしないと作りにくいんだってさ。

 だから、地面に落ちてるやつは普通に食べて、俺は木にのぼって、木になってるやつを集めるつもりだ。」


「そうなの?僕、木にはのぼれないからなあ……。そっちはリュートに任せるよ。

 僕は地面に落ちてるやつと、薪と草を集めるね。それなら僕にも出来るから。」

「うん、頼んだ。よし、頑張ってたくさん集めようぜ!」

「あっ、待ってよリュート!」


 駆け出した俺に、息を切らせがらユーリが後ろから追いかけてくる。

「はあ……はあ……。リュート、僕より小さいのに、なんでそんなに足が早いの?

 僕、そんなに早く走ったら、森の奥につくまえにへばっちゃうよ。」


「そっか、ごめん。

 父さんの子だからかなあ。俺、かけっこだけは、兄弟の中で一番早いんだ。」

「村の子どもたちの中で一番はやいんじゃない?ユージンは一番強いし、リュートの家族はみんな凄いね。」


「一対一なら、ケンカだってアニキに負けねえよ。けど、ユージンは絶対、レイかマーテルを連れて挑んでくるから、いつも負けちゃうんだ。ずるいよな。」

「お兄ちゃんだから、弟に負けたくないのは分かるけど、2人がかりで勝っても、別に凄くないのにね。」


「ほんとだよ。」

 ユーリに合わせてゆっくり歩きながら話してるうちに、トトの実がなっている木がはえている、森の奥へとたどり着いた。

「凄いや!話してたら坂道が気にならなかったよ!いつの間にか登りきってた!」

 ユーリが嬉しそうに言う。


 昨日卵を食べたからかな?昨日来た時よりも、全然登る時に疲れなかった。

 今日は父さんが仕事が休みで、朝から鶏小屋を作ってくれたんだけど、鶏が卵を産むのに間に合わなくて、鶏は巣ごと倉庫に置いてたら、朝そこで既に卵を産んでいた。


 それを取って母さんに渡して、母さんがそれを斗麻に焼いて出してくれた。

 斗麻はそれをパンに挟んで食べていた。硬いパンも、これなら少し美味しく感じるな、と言って、珍しくたくさんご飯を食べた。いい傾向だな。


「じゃあ、僕は地面に落ちてる実を拾うね。縄を作るのによさげな草があったら、それも集めておくから。」

「分かった。俺は木になってるトトの実を集めるよ。」

 俺は早速スルスルと木にのぼった。


 立てるくらいの太さの枝の上に立つと、手をのばしてトトの実を掴む。

「枝を少し残すんだよな……。」

 実を掴んでぐっとひねると、少しだけ木の枝がついた状態でトトの実がとれた。それを何度も繰り返しては、籠の中に入れていく。


 手が届く範囲を取り尽くすと、一度木を降りて、今度は別の木にのぼって、また同じように実を引っ張って取った。

「よし、今日はこんなもんだろ。」

「ええ?リュート、もう集めちゃったの?

 僕まだこれだけしか集めてないのに。」

 ユーリがびっくりして俺を見る。


「近いところにたくさん集まってるから、取るのが楽だったんだ。それに、薪も、縄にする植物も集めないといけないから、トトの実はこれでじゅうぶんだよ。」

「じゃあ、急いで薪と草を集めちゃおう。

 寒いから、出来るだけ早く帰りたいよね。」


 ユーリはかついでいた籠を地面に置いて、体を屈めて、拾ったトトの実や、薪や枯れ草を、置いた籠に入れては、またさがしに戻っていた。

「それじゃ時間がかかるんじゃないか?」

 籠まで往復する分、体力を使う気がする。


「でも、どんどん量が増えるから、籠が重たくて運びづらいんだ。一度かついじゃえば、持って歩くことは出来るけど、引きずって移動するには、重たすぎるよ。」

 ユーリは籠の取っ手を引っ張って移動させようとしてみせ、ほらね、と言った。


「じゃあ、俺が持ってやるよ。」

 俺はユーリの籠を持ち上げた。

「凄いやリュート!力持ちだね!」

「どこまで運べばいい?」

「じゃあ、あの木の下に置いて。この辺はあらかた集めたから、今度はあの辺りを探すよ。」


「分かった。」

 俺はユーリの籠を、ユーリが指さした木の根元に移動させてやった。

「枯れてる草はあんまりないけど、枯れかかってる草なら、結構たくさんあるけど、これでもいいのかな?」


「たぶん。ずっと使うなら、ちゃんと枯れたやつじゃないと駄目だと思うけど、一回使うだけなら、全然それでもいいと思う。

 引っこ抜くと草で手を切っちゃうから、ユーリのナイフ借りてもいいかな?」

「いいよ、僕は拾うだけだから使わないし。はい、どうぞ。」


「ありがと、助かるよ。」

「リュートも早くナイフを貰えるといいね。僕よりずっと、使うの上手だもん。」

「別に今すぐ貰っても、全然使えるのにな。まだ俺が持つのは危ないって思ってるんだ。父さんも母さんも。」


「一度使ってるところを見せてあげたら?

 そしたら危ないなんて思わないよ。」

「そうだなあ……。」

 俺はユーリから借りたナイフで、枯れかけた草を、根本近くから切っては、背中に担いだ籠に放り込んだ。


「だって、自分の籠をかついだまま、僕の籠も持てるくらい、リュートは力が強いんだよ?同じ年齢の他の子とくらべるのは無理があるよ。僕やレイと同じくらいか、ううん、ユージンと同じくらいじゃない?

 ユージンだって、自分の籠をかついだまま、他の子の籠なんて持てないよ?」


「そうなのか?」

「前に、マーテルが石につまづいて転んでケガしちゃったことがあったでしょ?

 その時籠を持ってくれって、ユージンにマーテルが頼んでたけど、結局ユージンは2つ同時に籠を持てなくて、せっかく拾った籠の中身を半分捨てて、それでもレイと片方ずつ持ちながら歩いて帰ってたもん。」


「マーテルがケガして帰ってきた時のことは覚えてるけど、俺その時まだ森に行かされてなかったから、どうやって籠を持って帰ってきたかまでは知らなかったよ。」

「そんなに前の話しじゃないから、今も無理なんじゃないかなあ、ユージンには。」


 ふうん、じゃあ、やっぱり今はもう、力は俺の方が、ユージンよりも強いんだな。

「よしっと、こんなもんかな。

 俺のほうは集め終わったから、ユーリの分を手伝うよ。」

「ありがとう、助かるよ。」

 2人でユーリの分の薪や、地面に落ちているトトの実を拾って集める。


「昨日はじめてトトの実を食べたけど、ほんとに甘くておいしかったなあ。

 この場所はリュートにしか教えてないんだよ、他の子には内緒にしてね。

 みんなが集めに来たら、すぐに取り尽くされちゃうと思うし。」

 ユーリが、人差し指を唇の前に立てて、シーッという仕草をする。


「うん、わかったよ。」

 たくさん集めて売るつもりだから、俺と斗麻としても、そのほうがいいしな。

 ユーリの分も集め終わると、俺たちはゆっくりと坂道をくだっていった。

 帰る道すがら、他の子どもたちが、めいめいに薪を拾っているのが見える。


「みんなまだまだかかりそうだね。」

「同じ場所で全員で拾ってたら、拾える数なんて知れてるからな。このあたりのを取り尽くしたら、また全員で移動して他のところに集めに行くんだろうけど、全員が一日取る分を拾うってなったら、まだまだ時間がかかるだろうな。」


「僕達はいい場所を見つけてよかったね。

 こんなに早く帰れるなんて凄いよ。

 早くクルタおばさんの家にいって、あたたかいスープが飲みたいな。」

「俺はトーマが待ってるから、家に帰るよ。」


「一緒にクルタおばさんの家に行かないの?家に帰っても、寒いでしょ?」

 ユーリの家は帰っても誰もいないから、家族が戻るまで家に火がなくて寒いんだ。

「トーマと一緒にベッドに入れば大丈夫さ。昨日も2人で寝てたら、寒いどころか暖かかったしな。」


「そっか、いいな、兄弟がいるって。

 僕も兄弟が欲しいよ。」

「一人っ子って、この村じゃ珍しいよな、ユーリの年なら、大体みんな下に兄弟がいるのに。」

「そうなんだよね。

 でも神様からの授かりものだから、こればっかりはしょうがないよね。」


 話している間に、村までたどり着いた。

「じゃあ、僕はクルタおばさんのところに行くから、ここでさよならだね。」

「うん、さよなら。」

 クルタおばさんの家に向かっていくユーリと分かれて、俺は自分の家に帰ると、俺たちの部屋の窓をノックした。


『斗麻、帰ったぜ。』

『早かったね。

 待ってて、今鍵をあけるから。』

『無理しなくていいぜ、待ってるから、ゆっくりあけてくれよ。』

 普段ベッドから殆ど起き上がらない斗麻は、当然歩くのも遅いのだ。


 だけど思ったよりも早く、斗麻が玄関の鍵をあけた。

「早かったな?」

「卵のおかげなかな?

 なんだか今日は少し調子がいいんだ。」

 俺は家の中に入ると、玄関の鍵をしめて、俺達の部屋に入って、背中にかついでいた籠を床におろした。


「いっぱい取ってきたぜ、こんなんでいいのか?」

 俺はトトの実や、枯れかけた草を、籠からひとつかみだして斗麻に見せる。

「うん、上等上等。」

 斗麻が嬉しそうにうなずく。


「それで、これからどうするんだ?」

「まずは部屋の掃除をしよう。この部屋で作るから、ホコリが凄いのはまずいよ。」

「じゃあ、それは俺がやるよ。

 部屋を掃除したあとはどうするんだ?」

 元々斗麻の為に、部屋は掃除したいと思ってたしな、ピカピカに磨いてやろう。


「この草で縄をつくろう。そしたらトトの実の皮をむいて、縄でトトの実の枝がついてる部分をしばるんだ。

 琉斗が掃除してる間に、俺が作るよ。

 あとは母さんたちが帰ってきたら、料理のあとの火を使わせて貰って、お湯を沸かしてトトの実を15秒くらい茹でるんだ。」


「茹でる?そんな工程あったっけか?」

「そうしたほうが、カビがつかなくなるんだ。カビたら食べられないからね。」

 俺はめちゃくちゃいいことを思いついた。

「お湯を沸かすなら、ついでに斗麻の体も洗おうぜ、体を綺麗にした方が、病気も治りやすいだろ。」


 煮沸消毒だけに使うには、お湯はもったいなさ過ぎるからな。

「そうだな、せっかく貴重な薪を使ってお湯を沸かすんだし、トトの実のエキスが入ってるお湯は体にもいいから、煮沸消毒した後のお湯を使わせて貰おうかな。

 琉斗、俺の体、お湯で濡らしたタオルで拭いてくれるか?」


「こんだけの量を煮沸消毒するなら、結構な量のお湯がいるだろ。せっかくだから、タライにお湯をはろうぜ。体を拭くだけじゃなくて、お風呂に入ろう。」

「いいな、久しぶりの風呂、楽しみだ。」

 斗麻が、トトの実と枯れかけた草を見せた時よりも、嬉しそうな表情で笑った。

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双子の異世界奮闘記〜なんにもなくても2人でいれば最強なんじゃね?〜 陰陽 @2145675

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