第17話 施政方針
通常国会初日が終わり、一党の議員たちは墨田区の東京スカイツリーが真近に見える古い2階建てビルの一室に集まっていた。このビルは吉村議員の父親が所有者で、「一条さんのためなら…」と破格の賃料で一党が借り受け、一党の党本部となっていた。もちろん瀬田によって「掃除済み」である。 「総理は答弁を拒否しましたね。」後藤が一条にそう言うと、一条は少し笑みを浮かべながら言った。「総理は答弁書を用意していたのに読まなかった。それで総理の人となりがよくわかりました。」「どういうことでしょうか?」「おそらくあの答弁書は官僚の作文です。総理の考えとは全く違うものだったのでしょう。だから読めなかった。つまり総理は自分の信念に嘘はつけない、実直な人だということです。」 「確かに木本総理は財務副大臣当時、若手の官僚たちとよく勉強会をやっていました。そしてそこでまとめた政策を持って、財務大臣の金山や次官の窪田に緊縮財政の方針を見直すように提言も行っていました。派閥の長である金山に咎められても、自分の考えは曲げなかったので、ある意味、私よりも「暴れ馬」なのかもしれません」元財務官僚の手島がそう言って笑った。「総理の考えは私たちに近いのかもしれませんね。民自党という底なし沼に沈んでしまわなければいいのですが…。」 その後一党の面々は、現在この国が直面している問題点を、各自が自身の専門分野を中心に分析し、その情報を皆で共有した。 一通り議論が終わると、一条が全員に向けて言った。「皆さん、私たちがこれから行うことは、「当たり前」と思われている現在の政治・経済体制の歪みを真正面から否定し、国民が一人の人間としての尊厳を持って生活できる国を作ることです。その行く手には、あまたの抵抗勢力が立ちふさがることが予想されます。権力と金の事しか頭にない政治家、その政治家を利用して私腹を肥やす輩、労働者を踏みつけて、その上に胡坐をかいている資本家、その他無数の既得権益者…これらの勢力を一掃しない限り、この国の未来はありません。そのために皆さんの英知を結集してください。時にはあり得ない、不可能だと思われるような政策を思いつくかもしれません。それでもそれが国民のためになるのであれば、躊躇することなく提言してください。皆で実現の可能性を探ろうではありませんか。」一条の言葉に全員が深く頷いた。 最後に一条の政策秘書である片岡が、先日の清水の件を報告し、注意喚起と対応の仕方を説明した。
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