第9話 搾取

大賀内閣は、もはや「死に体」と化していた。求心力は消え失せ、一貫性のない、その場しのぎの政策で経済は低迷、余力のない企業は次々に倒れ、巷には職を求める失業者で溢れ返ったが、この状況にほくそ笑む者がいた。派遣会社最大手パーソン会長の武本信夫である。会長室で武本は、部下の佐川からの報告を受けていた。「会長、上期の利益は昨年度比で40%増です。このままいけば、今年の史上最高益は間違いないです。」武本は満足げにうなずきながら言った。「最初は力のない中小企業をつぶして失業者を増やし、派遣市場を活性化させようと思ったんだが、コロナのおかげでその必要もなくなったな。今は低賃金でも派遣を希望する者は山ほどいる。安い労働力を欲している企業にどんどん売り込め。」「今が儲け時ですものね。派遣の賃金をできる限り低く抑えて、新たな顧客企業を開拓していきます。もし景気が上向いてくると、賃金は上がって来ますから…。」「佐川君、景気が良くなれば、今度は大企業が動き出す。だから少々賃金が高くなっても問題ないよ。つまり、景気がよかろうが悪かろうが、うちは儲かるんだよ。「なるほど、会長は素晴らしいビジネスモデルを作り上げましたね。本当に尊敬します。」「もうすぐ臨時収入もあるしな。」「それはどういう…」「もうじき衆議院選挙がある。その前後に政府はまた給付金をばらまく予定だ。その時、うちがまた一枚かむことになる。」「前回のようにですね?」「そう、その事務をうちと電名が請け負う予定だ。」「しかし、前回の中抜きの事もありますし、大丈夫でしょうか?」「わからないようにやるさ。やり方はいくらでもある。金と票の事しか頭にない政治家連中を操ることなど造作もないからな。それに頭の悪い国民は、前回のようにそれらしい数字を並べて必要経費だと押し通せばそのうち忘れるさ。」武本はそう言って高笑いした。

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