第6話 「K」

「希望を持たずに生きることは、死ぬことに等しい」(ドエトエフスキー)                               希望が持てない国「日本」 ただ生きるためだけに、低賃金で心も体も限界ぎりぎりまですり減らし働く人々、その上に胡坐を書き、悠々自適な生活を謳歌する既得権益者や資本家。このような「超格差社会」を生み出したのは、まぎれもなく民自党政権であることは皆わかっている。しかし、選挙があれば民自党が勝利する。だから「民自党を選んだ国民が悪い、文句があるなら選挙でその意思を示せ。」と言われる。   だが、野党は当てにならない。一度痛い目にあったこともそうだが、国会論戦の程度の低さを目の当たりにして、皆あきれている。つまり投票したくとも一票を投じたいと思える政党がないのだ。それは投票率の低さが物語っている。国政選挙の投票率は50%前後、国民の約半数は棄権しているのである。                       ネット上で、あるサイトが話題となっていた。「K」と呼ばれるそのサイト上では、政治・経済から情報科学・物理学まで、あらゆる分野の専門家たちが、毎週一つのテーマごとに、それぞれの立場から徹底的に議論を交わし、「どうすれば国民の幸せに繋がるのか」その道筋を示した。特に面白いのは、そのテーマに関係する政府の政策の裏で、暴利を貪る企業・団体を実名で公表し、痛烈に批判する「余禄」であった。普通、国民が知りえない正確な数字や情報が使われていることを問題視した政府は、特定機密法違反の疑いで、情報提供者を明らかにするよう圧力をかけたが、そのサイトの「運営者」は「これらの情報は、当然国民が知るべきものであり、安全保障に関する特定機密には当たらない」としてこれを拒否、完全なる論理武装で政府と対峙した。                                                「ねえねえ、今週の「K」見た?」城西大学のカフェで女子学生たちが盛り上がっていた。「見た見た、今週のテーマは「民営化」。でも水道の民営化はあり得ないわね。私たちの命を支える水の運営を民間企業に委ねるなんて…。東邦大学の田所教授も言ってたけど、日本国民の共有財産であるはずの世界に類を見ない美しい水を、政府や自治体がお金のために勝手に売り飛ばすなんてことは絶対に許されないわ。」「それもコンセッション方式で…」「そうよ、もともと水道管の老朽化化が進んでいて、その修理や交換にお金がかかるから民営化のはずが、水道管の維持・管理は自治体がして、運営権だけを民間に売るってことでしょう?何のための民営化なのよ。」「だいたい国民の命にかかわるインフラ整備は国が責任をもってすべきでしょ。そのための税金なのに…。」「それに水源地のある広大な土地を、中国資本が爆買いしているんでしょ?「規制する法律がないので…」とか言ってないで、早く手を打たないと大変なことになるのに、政府はいったい何をしているのよ!」女子学生たちは頷きあった。「それにしてもあのサイト、メンバーもすごいけど、「運営者」の情報力には驚くわ。」「そうそう、なんか政治や経済の「闇」みたいなモヤモヤがすっきり晴れ渡ったようによくわかるもの。」「いったい誰なんだろうね、あの「運営者」…」

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