かぼちゃシチューはこの後美味しく頂きました。

大粒いくら

第1話

「おい、これ、どうなってる?」

「どうもなってないよー。」

 さっきまで薄いクリーム色をしていたシチューの色が濃くなっている。というか、オレンジ色?


「いやいやいや。絶対おかしいだろ。何のいたずらだよ。」

 うっかり仕上げに使う牛乳を買い忘れて、コンビニに往復ダッシュしたら、クリームシチューがオレンジ色になっている。幼馴染の実花みかが何か仕掛けたのは明白だった。


 実花と俺は家が隣同士で、共働きの両親は子供らが高校生にもなれば、遠慮なく残業してくる。その間、俺は自炊していたが、ある時実花が毎日カップ麺や菓子パンばかり食べていると知るに至り、お互いの両親を含めて話し合った結果、現在の俺の食事作り担当である。


 俺は遠慮したのだが、話し合いの結果として、月に幾ばくかのバイト代めいたものも頂いている。何故なら、実花の料理の腕は教えても教えても無意味な程壊滅的だったからだ。もし交互に料理を担当するなら、実花担当の日は、いっそ昆布でもしゃぶっていた方が余程健康的な程の壊滅的さだった。


「…まさか絵の具?じゃないよな。」

 言いながら一抹の不安を覚える。実花なら思い付いたらやりかねない。何せ、醤油の代用品にソースを使って、すまし汁を作ってみせた女である。


「ちっがーう!もう、今日は何の日!?」

 付き合ってる訳でもないのに、何の日と聞かれるとドキッとするのは、男の本能なのだろうか…。

「何のって…。誕生日、はこの前終わっただろ。創立記念日…って、別に祝わないか。えー…。」

 やばい何も思いつかない。というか、何で焦る必要があるんだよ。いや、でも、ちょっと怒り顔の実花も可愛、ってそんな場合じゃないよな。


 実花の方は知らないが、俺はいつからか実花が好きだった。じっと見られるとドギマギしてしまう。


「もー!これだよ!絵の具なんか入れる訳ないじゃん!トモちゃん達に聞いたんだよ!」

 トモちゃん達というのは実花の仲良しの友達で、その手にはかぼちゃフレークの袋が握られている。


「トリック オア トリート!」

 実花がにこにこと掛け声をする。だが、

「いや、実花さあ。それはいたずらの前に言うやつだよ。“お菓子をくれなきゃ、いたずらする”んだろ。」

「へ!?」

 実花が素っ頓狂な声をあげる。可愛い。というかよく見たら、俺がコンビニダッシュしている間に、魔女の仮装までしてる。滅茶苦茶可愛い。


「うーん。まあいいや!お菓子頂戴!」

「いきなり言われても、何も無いよ。」

「そっかー。じゃあ、私があげちゃおう!」

 ここまでは織り込み済みの様だ。よく考えたら、今朝牛乳があるのは確認したから、多分この為に実花は牛乳を一気飲みしたに違いない。


「じゃじゃじゃーん!」

 実花は最近近所に出来たキャンディショップの包みを出してきた。しかも、何故か得意げである。

「はいはい。」

 俺はわざとちょっと怠そうに包みを受け取った。

「開けて開けて。」

 言われるまま、包みを解くと、中には赤いキャンディの詰まった瓶とメッセージカード。


 “好きです。付き合って下さい。”


 驚き過ぎて、瓶を落とすところだった。

 見ると、さっきまではしゃいでいた実花が、瓶の中身のキャンディみたいに真っ赤になって俯いている。俺もきっと同じ色をしているのだろう。


「あー、えっと。」

 何と言えば良いか分からず言い淀むと、実花がびくりとした。やばい。振られると勘違いさせてるやつだ、これ。

「宜しくお願いします…?」

 慌てて言う。

「え、本当に?嘘じゃ無い?」

「うん、言ってなかったけど、俺も実花好きだよ。」

 そういうと、実花は更に赤くなったが、顔は笑顔になっていた。

「ハッピーハロウィン。」

 その横顔にそっと口付けた。

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かぼちゃシチューはこの後美味しく頂きました。 大粒いくら @-ikura

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