第5話 新橋ナイト2

 30分後、ボーイが席へ来た。

「失礼します。アズサさんお借りします。続けてヒトミさんをご紹介します。」

キャストが入れ替わった。赤いチャイナドレス風の金髪ショートヘア、色んなタイプが居るんだな、ただ、どれも熟女ではない気がするが・・

「ヒトミですっ。会えて嬉しいデスっ。お名前は何ですかっ。」

「俺は坂本、よろしく。」

「ヒトミも飲み物飲みたいですっ」【ド直球だなオイ・・】

「後でな・・」

どうもこの娘はハードボイルドな俺とは波長が合いそうもないので会話に没頭せず店内を観察することにした。

【いや、アズサとも会話は成立してなかったぞ・・】

店内は暗いし、他の客とは目線が合わないような席の配置なのでターゲットを確認できない。

「トイレはどこかな?」

「こっちですっ」ヒトミが軽く手を繋いでトイレへ案内する。

少しゆっくり歩きながらターゲットを探す。居た、奥の席で黒ドレスのキャストと談笑している。トイレで暗視カメラを準して左手に隠し持って動画撮影を開始。席へ戻りつつ。首を撫でる風を装ってカメラを高い位置にしてターゲットを撮影する。

席へ戻り、カメラをポケットに入れ、ヒトミからおしぼりを受け取った。


「さて、と。そろそろ会計してもらえるかな?」

「えー、もう帰っちゃうですかっ?」

「すまんな、俺はロック3杯までだと決めてるんだ。」

【なんだそりゃ・・】

「えー、ヒトミ一杯も飲んでないっ!」【すごいゴリ押し営業だな・・】

「俺は飲んだ。」

【なんだその返し。天然 vs 天然、案外お似合いなのかも、この二人・・】


 店を出て、向かいのビルの喫煙所でタバコを吸いながらターゲットが出てくるのを待つ。あの感じだと黒いドレスのキャストが浮気相手なのか。だとすると、アフターで食事、ホテルコースだろうか。

「今夜は完徹になりそうだぜ・・」

今火を消したばかりのマルボロを見つめながら大きな溜息とともに呟いた。

背中にはハードボイルドと哀愁が漂っている。

そして、再びマルボロに火をつけた。今消したばかりのマルボロに・・

【それ、シケモクだろ、ケチだなオイ・・】


 ターゲットが出てきた。

23時を少しまわったばかり。この界隈ではまだ序の口な時間だ。

アフターは無いのか?

あのキャストが相手じゃないのか?

もしや、今日は単なるキャバクラ遊びなのか? ハズレなのか?

俺の探偵センサーも回答が出せず困惑してるようだ。

尾行を再開する。新橋駅へ向かって京浜東北線に乗り込んだ。

この時間帯の通勤電車の、残業で疲れた顔と、ほろ酔い顔とが混ざった不思議な空間はどうも好きになれない。特に、任務遂行中の俺にとっては、今が戦闘中だからだ。

【いやいや・・酎ハイ飲んでウィスキーロックも飲んでたでしょ・・】


 川口駅、ターゲットが降りた。資料によれば自宅は川口。やはり今日はハズレだ。

西口を出て歩くこと15分、この辺りでは比較的大き目のマンションへ入っていった。マンション名を確認、やはりターゲットの自宅だ。まさか同じマンションの違う部屋で不倫相手と会うなんて想定出来ないので、今日はこれで終了。ハズレだ。

昨日は一発ツモだったのだが、流石に二日続けてラッキーは無いようだな。

帰るとするか。

川口駅へ戻る。終電は出た後だったか・・。始発は4時半、あと3時間、よし、丁度良い時間だな。夜風に吹かれながら思考の整理でもするとしよう。ハードボイルドにはこういう時間も大切なのさ。

【ホテルに泊まる金がないだけでしょ。せめて漫喫とかファミレスでも行けば良いのに・・】

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