第4話 新橋ナイト

 田町の駅から10分程の雑居ビル。これが今回のターゲットの職場だ。ビルの出入口は一か所だけ、張り込みは簡単そうだ。

ターゲットが出てきた。左腕のロレックスに目をやる。19時25分。

【いや、レロックス、だね・・】

ちなみに、最近このロレックスが毎日10分程度遅れることに気がついて、毎朝時間修正してるんだが、これこそ、最高級機械式腕時計オーナーの醍醐味ってやつだな。

【パチもんだから品質悪いんでしょ・・】


 ターゲットは京浜東北線に乗って新橋で降りた。

駅前のディスカウントストアでネクタイを何点か見た後、烏森通りの焼鳥屋へ入っていった。俺はターゲットが入った焼鳥屋の斜め向かいの立ち飲み屋へ入って、ホッピーと枝豆で張り込みを続行する。お、枝豆茹でたてで美味いぞ。


 酎ハイも飲んじゃおうか悩んでいるところにターゲットが出てきた。頼んでたら一気飲みしなきゃいけない所だったぞ。助かったぜ。

【いや、仕事中なんだから飲むなよ・・】


 ターゲットはSLが飾ってある駅前広場を経由して、路地を3本程入った飲み屋の雑居ビルへ向かった。

ビルにエレベーターは1台、乗り込んだのは運よくターゲットだけなので、行先階は確認できる。エレベーターは5階で止まった。

看板で5階の店を確認、カジュアル熟女パブPTA2、うーん、趣味色の強そうなキャバクラだな・・。


 とりあえず、様子を確認する必要があるので、10分程後から俺も店に入った。

内装は普通のキャバクラ、キャストも普通、っていうか熟女の定義って何だろう?

「いらっしゃいませ。ご指名は御座いますか?」

「いや、初めてなんで・・」

「かしこまりました。ではフリーでお伺い致しました。お飲みものは?」

「ウィスキー、ロックで」

「かしこまりました」

ボーイがウィスキーのロックを作ってテーブルに置いて去っていった。

うん、やっぱり俺のようなハードボイルドにはウィスキーロックが必需品だな。

【いや、いつもは缶チューハイでしょ・・】


キャストが来た。濃いグレーのワンピースで軽い茶髪をお団子のようにまとめている。

「いらっしゃーい、アズサですぅ。お名前教えて貰って良いですかぁ?」

「俺は坂本、よろしくな。」

【一応探偵なんで本名は使わないんだね】

「お飲み物は? ロック? 渋い感じぃ」

「あぁ、職業病みたいなもんだな。」

「え? ウィスキーロックが職業病? あ、もしかして坂本さんってウィスキー屋さん?」

「いや、違うな・・ ところでここ、熟女パブって名前だけど、熟女って年齢の人なんか居ないよな?」

「うーん、この世界だとメインは10代の18、19で、20歳になったらオバサンって呼ばれるから、25超えたら熟女って感じぃ?」

「なるほどな・・。 可愛い熟女に乾杯だ。」【寒いな・・】

「え?アズサも飲み物頼んで良いのぉ? 嬉しいぃ~。」【この娘、天然か?】

「いや、そういう意味じゃない。君の瞳に乾杯的な意味だ。」【寒すぎるよ・・】

「えぇぇぇ、頼んじゃだめなのぉ?」

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