第3話 事務所襲撃

 ドンドンドンドン! 翌朝、事務所のドアが乱暴に叩かれる音で目を覚ます。 

来た!俺は直ぐさま状況を理解した。これは組織からの報復だ。だが、どの組織だ?MI6?CIA?公安? まさかモサド!? ひとまず雑誌が詰め込まれている書棚の裏に身を隠す。これで拳銃程度の襲撃ならしのげるはずだ。普段から準備を怠らない、これが探偵の鉄則。

ただし、モサドの場合、エモノは軽機関銃であることが多く、こんな雑誌書棚では守り切れない。やはり鉛の板を張っておくべきだったか・・忙しさにかまけて防衛装備を怠ってしまった自分が恨めしい。


ノックの音は続く、背中に冷たい汗が流れている。どうする?次の一手は?

長い、時間の経過が遅すぎる。続けてドアノブがガチャガチャと回される。

30分程続いただろうか。ようやく組織の連中も俺のセーフハウスへの襲撃が失敗だったと理解したようで、シンと静まり返った。

【いや、実際には3分も続いてないけどね・・】


更に30分ほど書棚の裏で過ごしてから、音を立てないようにドアへ近づいた。 ドアに耳をつけてみる。物音はしない。そっとロックを解除してドアを開け、鏡だけを出して周囲を確認してみた。廊下に人影はない。念のため、階段の踊り場と非常口のドアも開けて確認した。やはり人影は無い。

部屋に戻るとドアに張り紙、それも3枚。これで敵の正体が明らかになった。

【今月、先月、先々月の家賃の請求書だよね、これ・・】


 この状況は最悪だ、大家が動いたんだ・・ ヤツはビルの1階でタバコ屋をやっている。このままでは事務所の出入りの時に見つかっちまう・・。

しかし、依頼主は俺の調査を待っている。何としてでも任務遂行する、それこそがプロの探偵なのだから。

よし、こうなったらプロの探偵の実力を見せてやる! こっちもやられっぱなしじゃすまさないぜ、俺の後ろには立つなよ!

【いや、ちゃんと家賃払えよ・・】


 2件目の依頼、ターゲットの職場は田町。そろそろ出撃の時間だ。

任務の準備を完了して、事務所を出る。

ビルの出口から駅へ向かう角がヤツのタバコ屋だ。

俺は駅とは反対の方向へ向かって小走りに走った。そう、これで大家に見つからない、駅まではちょっと遠回りになるが、俺の安全には代えられないからな。これぞプロの探偵の実力さ。

【いや、小学生でも考えつくだろ、それ・・】

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