第2話 ミッション
川崎駅前の高層オフィスビル。ここが今回のターゲットの職場だ。出入口を確認すると正面と裏口があるが、駅へ向かうなら正面出入口を使うのが一般的らしい。
出入口が見えて長時間待機出来る場所を探す。あった、バス停だ、ここのベンチでターゲットの帰宅を待とう。
18:32、ビルから出てくるターゲットを確認。駅方向へ向かって尾行開始。
南武線に乗って鹿嶋田で降りた。駅の雰囲気に似合わない妙に高いオフィスビルや、高級そうなマンションが並ぶ方向とは反対に進んで約5分、レンガ風外装の3階建、こじゃれたアパートへ入っていった。
資料によれば、ターゲットの自宅は武蔵小杉のタワマンなので、これは浮気確定どころか、ほぼ半同棲に近い真っ黒黒案件だ。。
商売柄、この手の依頼が多いので数は見てきたが、俺は過去1度も浮気したことがないので、浮気してる人間の気持ちは全く理解できないんだ。
【えぇと、そもそも彼女居ない歴イコール年齢だから、だよね・・】
後は写真さえ撮れば完了だが、外で会って食事してホテルみたいなパターンだとシャッターチャンスが多いが、ここまで深い関係だと逆に写真は難しくなるんだ。わざわざ部屋の外まで見送りに出てきて外でハグ、キスなんかするのは安いTVドラマの中でしか起きないからな、俺の経験上。
【だから、彼女居ない歴イコール年齢何で経験ゼロでしょ・・】
とりあえずアパートの裏側、通路とドアが見える場所は。。よし、この辺りからならバッチリだ。あとは人が立ってても怪しまれない場所を探せばOK。
住宅地だから良い場所が無いな・・お、コンビニ発見。バッチグーだ。缶酎ハイとスルメイカでも持ってコンビニ前のガードレールに座っとけば、ちょっと迷惑な外飲みオヤジ風で、邪魔で迷惑がられるが不審者として通報されることはまずない、絶妙な選択だ。
ただ、クールでダンディでハードボイルドな俺も雰囲気にはマッチしないが、そこは凄腕探偵の演技力でカバーするのさ。
【いや、めっちゃ似合ってる、というか、普段もコンビニの前で外飲みしてるでしょ・・】
23時少し前、2階奥の部屋のドアが開いた。出てきた!ターゲットだ。女性もドアから上半身だけ出して手を振っている。撮った、ハグもキスも無いが、ターゲットが部屋から出るところ、女性が手を振るところの連続写真でバッチリだ、完璧すぎだぜ、俺。
新宿の事務所に戻った。俺は24時間365日、どんな緊急事態でも対応できるように事務所で待機することにしている。
【3ヵ月前に家賃滞納でアパートを追い出されたからね・・】
仕事が一件片付いたから、いつものところで軽く喉を潤すか。
事務所を出て角を曲がったコンビニ、缶酎ハイとコロッケ、今日は案件を片づけた祝杯としてプレミアムビールも買ってしまった。店の前の植え込みのコンクリートに腰をかける。
ワンカップを片手に座ってる顔なじみの半分ホームレス的なおっさんにコロッケを一枚差し出した。
「探偵さん、ゴチ。なんか良いことあったの?」
「ああ。大きな山が一つ片付いたんだ。」
「大きな山? そいつは凄いね・」
「詳しいことは守秘義務ってヤツで言えないんだが、英国MI6からの依頼で、途中から米国CIAの横やりが入って、最後にはイスラエルのモサドも絡んで大乱闘さ。危機一髪、まさにミッションインポッシブルだったぜ。」
【いや、浮気調査で缶酎ハイ飲みながら写真撮っただけでしょ・・】
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