第46話
勝負は遠近法が採用された。
両者一本ずつ射って、的の中心から近い方が勝者となる。
「お先にどうぞ」
浴衣に襷を掛けて胸当てを装着した佳乃が促すと、観月は「望むところ」と立ち上がった。
大分射込んだ後なのか、メイド服を着ても普段通りの体配で彼女の矢は的の中黒に吸い込まれた。
これで佳乃が勝利するには、的の中心を射抜かなければならなくなった。
スッと立ち上がった彼女は弓を構える。
(裾をあまり開けないから、いつも以上に五重十文字を意識しないと)
佳乃は静かに目を閉じて、自らのゾーンに入った。
(狙うは、真ん中のみ)
弓構え、打起し
ギリギリと弦を引き絞る音が場内に響く。
ギャラリーも、勝負の行方を固唾を呑んで見守っている。
(よし)
十分な会の後、引き放そうとしたその時
「お前ら、何やってるんだあっ!!!!」
「ひゃあっ」
突然の怒声に驚いた佳乃は、バランスを崩しながら射離してしまう。
彼女の矢はとんでもない方向に飛んで行き、2つ前の的の中心に突き刺さった。
「今の・・・声は・・・」
背後からもの凄い重圧を感じた佳乃は、おそるおそる振り返って・・・目を丸くした。
鋭い眼光を放った空良が、仁王立ちでこちらを睨み付けている。
ただ、彼はタキシード姿に選挙活動中の政治家よろしく『僕が本年度のミスター都高です(ハート)』と書かれた大きなタスキを掛けていたのだ。
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