第45話
「観月ちゃん!」
黒山の人だかりをかき分けて矢道の横に出た佳乃が見たものは、射位に立って礼配を行う『メイド嬢』だった。
格好とは対照的な豪快な射で的を射抜くと、周囲から大きな歓声が上がる。
「茅野さん・・・これはどういう事?」
現状を理解出来ていない佳乃は、取敢えず近くでオーダーを取っていた詩織を掴まえた。
「ひゃっ、月島さん!?」
詩織は彼女の姿を認めると、あわあわと慌てふためいて釈明を始める。
「ごめんなさい、一度は止めたんですが・・・私の発言が何か変な方向に行っちゃったみたいで」
「変な方向にも程があるわ」
「うう、ごめんなさい」
トレーを抱えて頭を下げるメイド姿の詩織を置いて、佳乃は道場の中に足を踏み入れた。
「今すぐ中止にしなさい、観月!!」
「あらよしのん、遅かったわね」
タオルで額の汗を拭っていた観月は、不敵な表情を浮かべた。
「ここの催物の責任者になったからには、グランプリを狙うわよ」
「だからって、これはやりすぎでしょっ」
「カタイ事言わないの」
と、ここで観月はポンと手を打った。
「そうだよしのん、今から競射で勝負しない?」
「え」
「よしのんが勝ったら、止めてあげてもいいわよ」
「え、え」
「それに、浴衣娘vsメイド嬢って、結構画になるんじゃない」
「な、何言って」
佳乃の声は、周囲のギャラリーの歓声にかき消された。
「すげー、いいぞ」
「やれやれー」
「この2人、確かミス都高争ってるんだろ」
「ここで決着を付けるのか」
「えええ」
状況に付いて行けない佳乃の傍に、彼女の弓具一式を抱えた燕尾服姿の男子部員が近付いて来た。
「ごめん月島さん、こうなったらやって貰うしかないよ」
「三杉君まで、そんな事言っても・・・」
「頼む、一射だけでいいから」
「あう」
逃げられない事を悟った佳乃は、腹を括った。
袖口から引き抜いたピンで前髪を止める。
「仕方ない、一本で決着付けるわよっ」
「そォこなくっちゃ!!」
観月は嬉々とした表情で、新しい矢を取りに向かった。
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