第44話

「中棟F2、異常無しです」

 浴衣姿のままヘッドホンをセットした佳乃は、実行委員会としての職務に戻っていた。

渡り廊下にカラカラと彼女の下駄の音が響く。

『了解』

 生徒会室に設置された大会本部(通称大本営)から、静香の声が聞こえた。

『次は1時間後、宜しく頼むわね』

「はーい」

そう答えて、佳乃はスイッチを切った。

彼女はこれで、次回の定時連絡まで暫く自由時間となった。



「月島さん、ウチのクラスに寄って行かない?」

「俺と一緒に模擬店回ろうよ」「いやオレが先だよ」

 次の瞬間、佳乃がフリーになった事を察した男子生徒達が、わらわらと群がって来る。

「あ、あのっ」

 囲まれそうになった彼女は、慌てて顔の前でバツを作る。

「私、これから行くところがあるから、ごめんなさいっ!!」

 そのままぴゅーっと校舎の外に逃げ出して行った。



「あーびっくりした」

 体育館の近くまで走って来た佳乃は、壁に手を付いて息を整えた。

「みんな、そんなに浴衣姿が珍しいのかなぁ」

 基本天然な彼女は、勘違いしたまま次の行動を考えていた。

 その時、近くを通り掛かった2人の男子生徒が話している内容が耳に飛び込んできた。

「おい、何か弓道部が凄い事になってるみたいだぞ」

「え、あそこはメイド喫茶じゃなかったっけ?」

「だから、そのメイドがさぁ・・・」

 彼等の会話を最後まで聞かず、佳乃は弓道場に向けて猛ダッシュを開始した。

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