第42話
「あのー観月ちゃん」
受付前で、茅野詩織は手を挙げた。
「ん、何?かやりん」
カチューシャの位置を直しながら観月は言った。
「ああ、言葉遣いは普通で良いからね。そこまでリアルを求めていないし」
「うん、分かった・・・じゃなくて!!」
普通に話が進んでしまっている事に気付いた詩織は慌てて基本的な疑問を投げかけた。
「何故弓道部の催物が『メイド&執事喫茶』になっているの!?」
クラスの準備に手間取って後から遅れて弓道場に来た詩織は、矢道に突如出現していたオープンテラスカフェに目を丸くした。
そうこうしているうちに近付いて来た観月にメイド服らしきモノを渡されたのだ。
事実、観月もややゴスロリ風の黒メイド服に身を包んでいる。
「姉さんが仕事の関係上色々手配出来るのよねぇ」
悪びれる様子も無く、観月は詩織の肩に手を置いた。
「大丈夫自信を持って、かやりん可愛いから絶対似合うって」
「そんな問題じゃないでしょ、って、マキちゃんもヒロコも何してるのよ」
ちゃっかり着替えていた同級生2人に非難の目を向ける。
「いやー意外とハマっちゃってね」
「男子も燕尾服着てノリノリだったし」
「・・・はあ」
空良と静香は生徒会活動、佳乃はクラスの準備委員だった為、実際に弓道部のイベントを仕切っていたのは観月であった。
橘女子の一件以来、彼女を見る目を変えていた詩織は、今回も安心して準備を任せていたのだが・・・。
「・・・私が、しっかりしなきゃ」
「へ」
「観月ちゃん」
「わ、何?」
身を乗り出して迫ってきた詩織に、観月はややたじろいだ。
「今から大幅な軌道修正は難しいかも知れないけど、せめて弓道部らしさは出しましょう」
「あ、うん」
「河上先輩が怒ってるわよ」
「いや、里香先輩ならむしろ笑ってくれるかと」
「おだまり」「ひっ」
詩織は彼女の発言を氷のような視線で突き刺した。
「とにかく矢道の喫茶スペースは撤去する事、そして」
「分かったわ、かやりん」
「え」
嫌な予感がした詩織は、再び瞳に火が灯ったかに見える観月を見据えた。
「弓道部らしさ、だよね」
ゆらゆらと前に進み出た彼女は、ゆっくりと言った。
「任せておいて、必ず成功させるわ」
「う、うん・・・」
数十分後、
詩織の不安は的中する事となる。
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