第37話

「危険だわ・・・」

 帰りの電車の中、腕を組んだ観月は難しい顔をしていた。

「確かに、橘女子は隙の無いチームだよね」

「かやりん、何の話をしているの?」

「え」

 見事に自分の発言をスルーされた詩織は、慌てて聞き返した。

「観月ちゃんこそ、何が危険なの?」

「うん、そうだ」

 何やらブツブツ独り言を始める観月。

「雰囲気というか何というか、どこか似ている、あのヒトに」

「へ?」

「かやりん、ちょっと寄り道して行こうか」

 本来降りるべき駅の1つ前で、観月は席を立った。

「ちょ、ちょっとみづきちゃ」

 ホームに降り立った詩織は、鞄の肩紐を掛け直しながら訊ねようとした。

「良い機会だから話しておくわ」

 それを制する様に、観月は口を開く。

「私たち・・・ソラ君を含めた私達にとって、大切な先輩の事を」




 駅前の『ベアーズコーヒー』

 ロゴが入ったマグカップを手にしたまま観月の話に引き込まれていた詩織は、やがてふうと息を吐いた。

「知らなかった・・・そんな事があったんだ」

「黙っていて、ごめんなさい」

 観月は申し訳なさ気に頭を下げた。

「夏から入部してくれたみんなに話すキッカケがなかなか掴めなくて、それに」

 カフェオレを少し口に含んだ彼女は言葉を続けた。

「言葉にしたり、思い出にしてしまうには、ちと辛いかなーって」



 告別式に立ち会った観月は、彼女が遺した弓を抱えたまま、ずっと涙を流していたのだ。



 詩織は、自分なりに感じた精一杯の思い遣りを持って、言葉を創り上げた。

「河上先輩の遺志を、國府田先輩や観月ちゃん達が引継いでいるんだね」

「うん」

 ようやく本来の彼女に戻った観月は、目の前のケーキセットに手を付け始めた。

「私達だけじゃない、勿論かやりん達もだよ」

「観月、ちゃん」

 先程から涙腺が緩くなっていた詩織は、何気無い彼女の一言に胸が熱くなった。

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