第36話
王者の風格とは、まさにこの事を示すのか。
橘女子高校弓道部は、突然現れた観月達に対しても全く練習の手を抜く事は無かった。
むしろ、新たに出て来た芽を徹底的に叩き潰す程の気迫が、時間が経つ毎に道場内に膨れ上がっていたのだ。
「かやりん、逃げちゃ駄目だよ」
制服のスカートの裾をぎゅっと握り締めて、観月は隣で蒼白の表情を浮かべていた詩織に言った。
「きっと、この一時一時が、これからの私達の未来に繋がっているから」
「う、うん」
雰囲気に気圧されながらも、詩織は隣に座っている同級生に小さな勇気を貰った気がして、少し嬉しくなった。
私も、弓道部のレベルアップに関わって行きたい。
今日声を掛けてくれた観月に対して、詩織は改めて感謝の気持ちを感じていた。
「・・・ありがと、観月ちゃん」
「ん?」
訳が分からない顔をした観月に、彼女はクスッと笑った。
「有難うございました」
道場前で頭を下げた二人に、亜紀子は少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「こちらこそごめんなさい。練習に集中し過ぎた為、大してお構いも出来ませんでした」
「いえいえ、お陰様でお腹一杯ですよ」
少し地を出しておどけた観月に、亜紀子の顔も和んだ。
「さすが都高の部員さん、1年生と伺いましたが堂々とされていますね」
「ええ、良い先輩に恵まれているもので」
観月はぐっと胸を張った。
「想いを重ね合わせるベクトル、か・・・」
亜紀子はふと独りごちた。
「え?」
「吉田さん、空良く・・・國府田君は元気にしてますか?」
その言葉に、観月の片眉がぴくんと跳ね上がる。
「安崎さん・・・ソラ君、ご存じなんですか?」
「ええ、よく知っていますよ」
自らの言葉で場の雰囲気を変えてしまった事を気に掛けず、余裕の表情を見せた亜紀子は若干含みを持たせてそう言った。
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