第35話
伝統ある建物は自ずとその歴史や風格を身に纏うものである。
橘女子高校は、創立当初から武道に力を入れているだけあって、決して最先端では無いが手入れの行き届いた立派な弓道場を持っていた。
そして、そこに集う部員達も・・・。
「橘女子高校弓道部、部長の安崎です」
「都合ヶ丘高校弓道部、渉外担当の吉田と」
「茅野と申します」
自ら作成した名刺を差し出した観月は、余裕ある微笑を向けて言った。
「大変恐縮です。部長様直々お出迎え頂けるなんて」
「いえ、隣県からわざわざお越し頂いたのですから、当然の事ですよ」
亜紀子は柔らかな表情を作った。
「確か練習試合の申込みとお伺い致しましたが、申し訳ございません、こちらも大会が近付いておりますので当面対外試合を組む予定はございませんので」
「そうですか」
観月は一瞬残念そうな表情を見せたが、すぐに話を別の方向に振った。
「それではせめて、練習の見学をさせて頂けませんでしょうか?ナラ県屈指の実力をお持ちである橘女子さんが日々どのような鍛錬を積まれているのか、とても興味がありますので」
「いいですよ」
亜紀子は全く表情を変えずに返答した。
「ではこちらに、お時間の許すまでごゆっくりご覧下さい」
少し先を歩く亜紀子の後を付いて行く観月。
「観月、ちゃん」
先程二人のやりとりに全く入って行けなかった詩織は、彼女の額に浮かんだ細かい汗に気付いて心配そうに声を掛けた。
「大丈夫」
これが武者震いって奴かな、と考えながら観月は言った。
「せっかく貰ったチャンスだし、堂々と偵察させて貰いましょう」
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