第28話
「あーぐやじぃ」
弓弽袋(ゆがけぶくろ)の紐をガジガジと噛みながら、岩井は地団太を踏んでいる。
「でも、個人戦で負けたのは事実だろ」
自校の集合場所に戻った外西は、いきなり不機嫌モード全開の彼女に捕まっていたのだ。
「むしろ、次の目標が出来て良かったじゃないか。増長する事無く、これからも日々稽古に精進」
「その事じゃありません!!」
「え」
「あの都高の落、私を指差してこう言ったんですよ」
『あの、袴に帽子って、あまり似合わないですね』
「月島佳乃、いつか殺す・・・」
「さっさとチームの輪に入れ、また部長が角生やしてるぞ」
軽い頭痛を覚えた外西は、こめかみを押さえながら彼女を追い立てて行った。
「すみません」
駅前喫茶店での打上げ後、自由解散となった帰り道。
弓道場による用事があった空良は、同じく学校に向かって隣を歩いていた佳乃にそう話し掛けられた。
「・・・何を謝られたのか、よく分からないんだが」
「私」
先程から幾分思い詰めた表情を浮かべていた佳乃は、堰を切った様に話し始めた。
「今日、自分でも納得できない射が2本もありました。結果論ですが、もしその2本を中てていれば屋敷川に勝っていたかも知れない」
「・・・」
「ダメですね、私。こんなんじゃ落失格です」
暫くの間、静寂が続いた。
やがて、くっくっという空良の笑い声が聞こえて来た。
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