第26話

 競技弓道の大半は、的中数によって決定される。

 限られた射数の中で争い、同中となれば「射詰競射」なる直接対決を行うのだが、今回は純粋に総的中数で決着を迎えた。

「1中差、か」

 団体準優勝のトロフィーを胸に抱いて、佳乃は掲示板のスコアを見つめていた。

「でも、勝ちは勝ちだからね」

 いつの間にか隣に来ていた岩井が、Vサインを寄越して笑った。

「そうですね」

「やけにあっさり認めたわねぇ」

 反応の薄さに不満気な彼女ははたと気付いた。

「あ、本選で借りを返そうってつもり?キョウトでも負けないわよ」

「はあ」

「何よ、気が入ってないわね」

 不服そうな彼女に向かって、佳乃は言った。

「あの、えーと今井さん」

「岩井ですっ!!!」

「あ、ごめんなさい」

 頭を下げた彼女は、でもハッキリとした口調で言った。

「私達、負けてないですよ」

「はあ?だって」

「団体戦は、そうかも知れませんが・・・」

 佳乃は、まっすぐ岩井を見据えて言葉を続けた。

「個人戦は、違いましたよね?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る