第24話

「フン、なかなかやるじゃない」

 爪をギリッと噛みながら、岩井満美子(いわいまみこ)は射場を睨み付けて言った。

「まあ、そうでなくっちゃ私がライバル視する意味なんて無いからね」

「見取り稽古とは感心だな、岩井」

「あ、外西先輩」

 先日現役を引退した屋敷川高校元男子部部長、外西修太郎(そとにししゆうたろう)が腕を組んで彼女の後ろに立っていた。

「12射10中か、都高のお姫様方も腕を上げたものだな」

 まあ彼女達は中学弓道経験者だったか、と一人得心している彼に、岩井はぷーっと頬を膨らませる。

「先輩、今日は私達の応援に来たんでしょ?ちゃんとお願いしますよ」

「ああ、悪い悪い」

 後輩のむくれ顔に気付いた外西は慌ててフォローした。

「ちゃんと岩井の皆中も見ていたよ。なかなか気合の乗った射だったじゃないか」

「エヘ、そうですか」

 照れ笑いを浮かべる岩井。

 その姿を改めて見て、外西は最初から突っ込んでおきたかった事を口にした。

「ところで岩井、その格好だが」

「はい?」

「・・・誰かさんを思い出すので、やめてくれないかな」

「すみません、日差しに弱いもので」

 岩井は、袴に合わせた紺色のレディースキャップを被っていた。

 ご丁寧に後ろで束ねた髪を、キチンと帽子のベルトに通している。

「御角が居なくなったと思ったら、今度はお前か・・・」

 外西は頭を抱えた。

 対外的な部長職の引継はこの大会中の為、事務局に頭を下げに行く役割はまだ彼になるのだ。

 当の本人は、うっとりと夢見る少女の様な表情を浮かべて言った。

「こうして御角センパイのパワーを貰ってるんです。試合に勝てますように、って」

「言っておくが、あいつは来ないぞ。今日は模試だからな」

「えー!!」

「ところで次の立の準備はいいのか?向こうで女子部部長が角を生やしているぞ」

 その言葉に、岩井はハッと我に返った。

「いっけない!!では失礼致します」


 バタバタと走り去って行く岩井を見送った外西は、後ろの壁に向かって話し掛けた。

「という事で、今日は表に出て来るなよ」

「・・・ウス」

「あと、先輩からひとつ忠告」

 外西はニッと笑った。

「都高ばかりに見蕩れていると、岩井に刺されるぞ、シュウ」

「・・・分かってますよ」

 ややあって、壁の向こうから軽いタメ息が聞こえて来た。

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