第18話
「すみません、荷物まで持って頂いて」
両手に紙袋を下げた二人は、駅に向かって歩いていた。
「いいよ、これもトレーニングの続きだと思えば」
「はい、あの・・・」
静香は今までなかなか聞けなかった事を口にした。
「インターハイ、残念でしたね」
空良から怪我の事を聞いていた彼女は、少し俯き加減で御角の言葉を待った。
「ま、これも運命だよ」
御角は、意外にもサバサバした口調で言った。
「地区予選で半ば燃え尽きてしまっていたしね。確かにアイツとはもう一度勝負をしたかったけど」
「空良さんも、同じ事言ってました」
静香はクスっと微笑った。
1年前の秋都祭で初めて出会ってから、彼女は御角と定期的に交流を図っていた。
価値観が似ているのか、彼の考え方には非常に共感を覚えるものが多かったのだ。
御角の方も、空良に対する時とは違って、いつも紳士的な対応をしてくれていた。
弓道をやっている人は、私の父である「井隼吉和」の名前をよく知っている。
自分は、全日本選手権を連覇した偉大な父の娘。
それでも変わらない態度を取ってくれた男性は、空良さんと御角さんだけ。
インターハイ強化合宿以来何となく連絡を取っていなかった為、静香は今日偶然出会えた事を素直に喜んでいた。
「御角さん、もうひとつ質問してもいいですか?」
「ん、何?」
「イメチェン、したんですか?」
御角の頭にいつも載っていたベースボールキャップが無い事に、静香はずっと違和感を覚えていたのだ。
「ああ、これね」
ややあって、今日初めて表情を陰らせた彼が言葉を続けた。
「ちょっと、気分を変えたくてね」
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