第4話

「それでは本日の練習を終わります。有難うございました」

「「ありがとうございました!!」」


 一瞬の間の後、部活終了時の独特なざわめきが室内に拡がって行く。

「ふう」

 佳乃は膝上に置いた「かけ」を軽く握って、小さな溜め息をついた。

(何回やっても慣れないものはダメだなぁ)

「よしの部長ォ~」

 いきなりあっけらかんとした声が弓道場内に響き渡った。

 佳乃はこめかみを押さえながらその声の主に話し掛ける。

「観月ちゃん・・・その部長っての、止めて貰えないかな」

「え、何で??」

 観月は不思議そうに聞き返した。

「だってソラ君が引退したら副部長が部長に自動昇格するんだよね」

「私は全然器じゃないし、空良先輩はまだ引退しません!!」

 佳乃は全力で叫んだ。



 都合ヶ丘高校に新しい弓道場が完成した際、空良はそれまで曖昧にして来た部の役割分担を決めた。

 理系コースの井隼静香を会計担当。

 行動力のある吉田観月を渉外担当。

 そして、

「私が・・・副部長」

 月島佳乃は言葉を失った。

「不服なのか??佳乃」

 空良の問い掛けに彼女は慌てて首を振った。

「いえ、決してそんな訳では。ただいきなりすぎて心の準備が出来ていないというか、観月ちゃんの方が適任じゃないかなぁって言うか・・・」

「あの日の言葉は、ウソだったのか??」

 唐突に空良が言った。

「あの日??」「あら」

 観月と静香が過剰反応を示す中、佳乃は空良が言うあの日あの時の台詞を思い出していた。



『私、頑張ります・・・弓道場と、空良先輩の為に』



「ううう、分かりました」

「よし」

 素直に頷いた佳乃の頭を、空良はポンと撫でた。

 それだけで彼女は赤面してしまう。

「じゃあ、暫く弓道部の事は頼んだよ、副部長」

「はい・・・え??」

 半分現実に戻りきれていない佳乃は、空良の言葉に少し引っ掛かった。

「今回の件で、ちょっと生徒会に借りが出来ちゃってさ」

 空良はごめんねのポーズを取って言った。

「どうしても会長選挙に出なきゃならないんだわ。まあサクッと落ちてくるから選挙期間だけ運営お任せするね」

「え、ええ!?」



 しかし、会長選挙は空良が他候補に大差を付けて圧勝。

 しかも彼の推薦で副書記長に静香が就任という、おまけ付きの結果となった。

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