第3話

「ごめんなさいおじい様、そんなに時間は掛からないから」

 携帯電話の向こうから聞こえる祖父の怒鳴り声を無視して、亜紀子は改めて現状認識に努めた。

 多分、生粋のお嬢様学校である本校に男子生徒が「公式に」入る事は史上初めての快挙(??)であろう。


 理事長である彼女の祖父の承諾を(事後で)取り付けた事で、國府田空良は私立橘女子高校のキャンバス内を堂々と歩いていた。

 本人に自覚は残念なほど全く無いが、周囲から向けられる視線は相当なものだった。

「あれが亜紀子様の許婚・・・」

「素敵な殿方ね・・・」

「いやーん、私の御姉様を奪わないでぇ」

 様々な雑音を全てシャットアウトした亜紀子は、空良に声を掛けた。

「あまり時間を掛けられなくてごめんなさい。見たい所があれば重点的に案内するわ」

「本当??ありがとう」

 瞬間、空良はふわっとした笑みを浮かべた。その仕草にドキッとした亜紀子は少し顔を赤らめる。

「べ、別にいいけど・・・」

「・・・弓道場」

「・・・え??」

 唐突な言葉に亜紀子は戸惑った。


 空良は気に掛けずに話を進める。

「昨日、ようやく新しい道場を建てるメドが付いたんだ。だから」

「だから??」

 続きを促す亜紀子。

「だから、里香先輩がどんな道場を建てたかったのか、イメージを掴んでおきたくてさ」

「あ」

 そこで、亜紀子は我に返った。


 思い出した。

 過ごした時間は決して長くなかったが、彼女の人生に大きな影響を受けた一人の女性の事を。

 そして多分、目の前にいるこの人にも・・・。


「分かった」

 亜紀子は空良にOKサインを送った。

「その代わり、私にも手伝わせてね」

「え」

「素敵な道場を作るのに、協力させて、ね??」

「有難う、とても心強いよ」

 感謝の言葉を述べる空良を見ながら、彼女は思った。



 今は、同じ方向を向いていたい。

 ベクトルを合わせたい。


 きっと、いつか繋がる。

 繋げて、みせる・・・。

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