1つの選択肢
「お、おおー!」
ギルドの建物に入って。
ミレイは思わず、声を漏らした。
花に溢れていた街並みとは違い、どこか厳格さを感じる広い空間に。
恐らくは冒険者なのであろう、多数の個性的な人々。
「す、凄い。ファンタジーだ。」
ミレイが想像していた通り。いや、想像以上に彼らは”冒険者”という風貌をしていた。
美しい鋼の剣に、頑丈そうな鎧。きっと彼らは剣士か、もしくは戦士なのだろう。
深い紺色のローブを纏う人の手には、年季を感じさせる木製の杖が握られている。恐らくは魔法使いなのだろうか。
(ヤバいな、これ。)
そう。”本物”は、ミレイの想像を遥かに超えていた。
ゲームやアニメの世界ではお馴染みの光景でも、実際に目にすると印象がまるで違う。
彼らの持っている剣も、魔法の杖も。そして彼らの顔つきも。
ゲームと”リアル”とでは、全く異なる質感を持っている。
「――おっと、後ろを失礼。」
「あっ、すみません。」
立ち尽くすミレイであったが。彼女の居る場所はギルドの入り口の目の前のため、真後ろから人が通り過ぎて行く。
その人物の姿を見て、ミレイは再び驚愕する。
ミレイの横を通っていった彼は、何やら猫のようなお面を付けていた。
だが、驚嘆すべきはお面ではなく、彼の頭の部分にあり。
とても作り物とは思えない、リアルな猫耳が生えていた。
じっと見つめていると。
ピクリと、彼の猫耳が動く。
「マジかあれ。」
明らかに人間ではない。
果たしてあの仮面の下には、どんな顔が存在しているのだろうと。ミレイは気になって仕方がない。
もっと凝らして見てみれば。
ギルドの建物内には、他にも普通とは違う特徴を持った人が、何人も存在する。
そしてそれが、当たり前のように受け入れられている。
「……異世界じゃん、ここ。」
ミレイは、胸に興奮を抱いた。
◇
「おおー」
壁一面に貼られた、”無数の紙”を見て。
ミレイは感心の声を漏らす。
紙の一枚一枚に、文字や絵などが描かれており。
そこに眠っている”見知らぬ冒険”に、ミレイは釘付けになる。
(すっごい。これが冒険者の仕事か。)
ゲーム的に言うならば、クエストかミッションか。
どこか馴染みある光景に、ワクワクが止まらない。
「えっと、なになに?」
その中の一枚を、よく見てみる。
『ジュピターの悪魔 危険度 Sランク相当』
角を生やした黒い悪魔と、泣き叫ぶ人々の絵が描かれている。
「へぇ。これって結構ヤバいのかな。」
悪魔、Sランク。それらの単語に、ミレイは強い興味を抱く。
(でも、異世界のはずなのに、文字が普通に読める。)
無数の紙を見つめながら、ミレイは首を傾げる。
(……日本語じゃ、ないよな? なのに、なんで読めるんだろう。)
明らかに見知らぬ文字のはずなのに。何故かミレイは、そこに書かれている意味を理解できてしまう。
疑問を抱くミレイであったが。
「あっ、そうだ。」
ここへ来た本来の目的を思い出して。
ギルドの受付の方まで向かっていった。
「あの、すみません。ちょっといいですか?」
そう声をかけられて。
ギルドの受付嬢である彼女は、本を読む手を止めた。
少々、面倒くさそうな表情のまま、顔を上げてみるも。そこには誰も居ない。
いや、よく見ると頭のてっぺんらしき部分が目に入る。
ほんの少し身を乗り出すと。一人の少女らしき人物、ミレイと目が合った。
「ああ、そこに居ましたか。失礼。小さくて目に入りませんでした。」
美しい黒髪の受付嬢は、小さなミレイに謝罪をする。
まぁ、とても謝罪とは言えない言葉ではあるが。
(むかっ、喧嘩売っとんのかコイツ。)
小さなミレイは、小さく怒った。
だがそんな小さな怒りに、受付嬢は気づかない。
「なにかご用でしょう。もしかして、クエストのご依頼ですか?」
「えっと。異世界から来た人を、ここで面倒見てくれるって聞いたんですけど。」
「あぁ。……なるほど。」
受付嬢は、ミレイの言葉を理解すると。
一旦、座り直して。
「――はぁぁ。」
深い深い、ため息をついた。
(えっ? ため息つかれた?)
その衝撃に、ミレイは唖然とする。
しばらくすると。受付嬢は再び身を乗り出して、ミレイと顔を合わす。
「失礼しました。数ある仕事の中でも、特に面倒くさそうな案件だったので。つい思わずため息が。」
受付嬢は感情の欠片もない謝罪を行う。
「少々お待ちを。すぐに対応いたしますので。」
少し時が経ち。
ミレイと受付嬢は、ギルドの隅の方にあるテーブルに、向かい合って座っていた。
テーブルの上には、信じられないほどに分厚くて、大きな本が置いてある。
本の題名は『異世界人対応マニュアル』
そのまんまであった。
受付嬢が、その分厚い本を開く。
「それでは、いくつか質問をいたしますので。嘘をつかずに、正直にお答えになってください。」
「はい。わかりました。」
ミレイの返事を受け、受付嬢は本のページをめくっていく。
「では最初の質問を。貴女に、名前はありますか?」
「えっと、はい。ミレイと言います。」
「ミレイさんですね。了解しました。」
再び、受付嬢はページをめくっていく。
恐らくは、名前が有る場合、無い場合。もしくは、言葉が通じない場合など、様々なページが存在しているのだろう。
受付嬢は黙々とページをめくっていく。
非常に面倒くさそう。もとい、つまらなそうに。
「ではミレイさん、貴女は異世界人ですか?」
「あ、はい。多分そうだと思います。」
「では、何という世界の、何という国から来ましたか?」
「えっと、地球という星の、日本という国、ですかね。」
「なるほど。日本ですか。」
受付嬢はページをめくっていき。
「……あぁ。結構、ありますね。」
明らかに声のトーンが下がる。
「少々お待ちを。」
そう言うと、受付嬢はマニュアルとのにらめっこを初めた。
他に、やることもないため。
ミレイは天井を見つめたり、テーブルの模様をなぞったりして時間をつぶす。
けれどもやはり、退屈しのぎにはならない。
「あの、わたしみたいに異世界から来た人って、結構いるんですか?」
どこか機嫌の悪そうな受付嬢に話しかける。
「……あー、はい。そうらしいですね。わたしは会うの初めてですが。」
マニュアルをペラペラとめくりながら。
一応、受付嬢は返事を返してくれる。
「こんな分厚くて、なおかつ面倒くさいマニュアルを、各地に配布しているくらいですからね。そこそこ居るんじゃないですか?」
「な、なるほど。」
(この人怖い! 年齢いくつなんだろ?)
無駄な質問は止めておこうと、ミレイは決心した。
「では、次の質問です。貴女は超能力や、魔法などの特殊な技能を使うことが出来ますか?」
「えっと、いいえ。」
「では貴女の居た世界に、そういった存在は居ましたか?」
「多分、居ないと思います。」
「……なるほど。」
再び、受付嬢はマニュアルを見つめながら黙ってしまう。
それに伴い、ミレイも居心地を悪くする。
しかし、先程とは少し違い。
受付嬢はただページをめくるだけでなく。
ミレイに気づかれないように、そっと彼女の様子を見つめていた。
「それでは、貴女の以前の職業は何でしょう。学業等でも構いませんが。」
「えっと。ITコンサルティングというか、Web制作を行う会社に務めてました。開発部のシステムエンジニアです。」
言葉の意味が伝わるかは疑問だが。ミレイは正確に職業を伝えた。
「なるほど。……なるほど?」
マニュアルを見つめながら。受付嬢の手が止まる。
「あいてぃー? うぇぶ?」
ミレイの言った単語を復唱しながら。
受付嬢はマニュアルの文章を睨みつける。
「――ああ。それは、”ぱそこん”、を使う仕事ですか?」
「あっ、はい。その通りです。」
そこまでマニュアルに書いてあるのかと。ミレイは感心する。
「……なるほど。貴女の事情は、だいたい把握できました。」
そう言うと。受付嬢は分厚いマニュアルを閉じた。
「では続いて。”アビリティカード”を、出してもらって良いですか?」
「あ、”アビリティカード”、ですか?」
知らない単語に、ミレイは困惑する。
「えっとそれって、みんな普通に持ってるもの、なんですかね?」
「そうですね。この世界に生まれた人間。そして、異世界からやって来た人間も、みな例外なく持っているはずです。」
受付嬢は、ミレイに向かって手を差し出し。
するとそこに、どこからともなく、1枚のカードが出現する。
鈍い、”銅色”のカードが。
「おおっ! 凄い。」
魔法とも手品とも取れる不思議な現象に、ミレイは興奮する。
「出そうと念じれば、カードは現れます。貴女もやってみてください。」
「わかりました。」
ミレイは手をかざし。カードが現れるように念じる。
すると、受付嬢の時とは若干異なり。
――深い闇を思わせるような、”漆黒”のカードが出現する。
「おお! これがわたしのアビリティカード。」
出てきたカードを握りしめて。ミレイは子供のようにはしゃいでしまう。
「これで何が出来るんですか? ステータスが分かるとか?」
「すてーたす? いいえ、それは分かりませんが。」
受付嬢は、ミレイの出した黒いカードを見て、妙に首を傾げる。
「カードのランク。星の数はいくつでしょう?」
「星の数、ですか?」
そう言われて。ミレイは自身のカードを見つめてみる。裏も表もまんべんなく。
「えっと、あの。このカード、何も書いてないんですけど。」
黒のカードには、星の数はおろか、それ以外の一切の情報すら書かれていなかった。
「……少々、拝借してよろしいでしょうか。」
「あ、はい。」
ミレイは、カードを受付嬢に手渡した。
受付嬢は、受け取ったカードの裏表を念入りに確認する。
首を傾げながら、ではあるが。
「なるほど。お返しします。」
そう言うと、ミレイにカードを返却した。
「……査定不能、と。」
受付嬢は瞳を閉じ。
ほんの少し、考えるような素振りをする。
「少々、お待ち下さい。」
すると受付嬢は、再び分厚いマニュアルを開いて、先程同様にページを凝視し始めた。
考えるように。あるいは、悩むように。
目の前に現れた、ミレイという名の異世界人に対して、どう対応するべきかを判断する。
◆
「――それでは、最後の質問をさせていただきます。よく考えて、回答をしてください。」
分厚いマニュアルを閉じて。
受付嬢は真っ直ぐな瞳で、ミレイに向かい合う。
「貴女には、”3つの選択肢”があります。これからこの世界で、”どう生きるか”、という選択肢です。」
どう生きるか。
その重い言葉に、ミレイは固唾をのむ。
「まず、1つ目。ここより遥か遠方にある、”ケッタマン”という国に向かう選択です。」
受付嬢は、人差し指を立てる。
「ケッタマンは、古来より数多の種族が共存する国であり、この世界で唯一、異世界人の集う街があります。そこへ行けば、貴女と同じ世界から来た人や、同じような境遇の人と、きっと出会えるはずです。」
受付嬢は、立てた人差し指を強調する。
「ケッタマンは浮遊大陸という少々特殊な土地に存在するため、移動にはそれなりの手間がかかります。けれどもご安心を。浮遊大陸までの移動は、ギルド側が全面的に支援いたしますので。何ら心配はいりません。」
受付嬢は立てた指を戻し。
優しく、机の上に添える。
「マニュアルによりますと、ギルドへやって来た異世界人の多くが、ケッタマンへ向かう選択をするそうです。」
受付嬢は、そっと瞳を閉じ。
「正直。わたしとしても、これがオススメかと思います。」
静かに、けれども強く。自らの私見を口にした。
その様子に、ミレイはわずかに首を傾げる。
「次に、第2の選択肢です。以前の職の経験を活かして、この地で生活を試みる、という選択です。」
ありきたりで、一番自然な選択のように思えるが。
ミレイに悟ってもらうべく、受付嬢は首を振る。
「ですがおそらく、この世界に貴女の言う”ぱそこん”を利用した職業は無いでしょう。まぁ、他に得意としている職業があれば、また別の話ですが。」
「……そういうのはちょっと、無いかなぁ。」
残念なことに。
ミレイには他に得意とする職種は存在しなかった。
「では、3つ目。最後の選択肢となります。……正直な話、これはあまりオススメできませんが。」
受付嬢は、重い口を開く。
「我々のギルドに所属する、いわゆる”冒険者”になる、という選択です。冒険者とはまぁ、”国に認められたなんでも屋”、程度に考えてもらって構いません。ただし、冒険者の解決する依頼は”クエスト”と呼ばれ、高度な案件ともなると、軽々と命を失いかねない危険な仕事です。……まぁ、低ランク向けのクエストならば、よほど危険は存在しませんが。」
それでも、と。受付嬢は厳しい瞳をする。
「冒険者は基本的に、才能を必要とする職業です。見た目や印象で判断するようで、悪いとは思いますが。」
受付嬢は真っ直ぐに、ミレイを見つめる。
「ミレイさん。貴女に冒険者が向いているとは、わたしには思えません。」
そう、正面から断言され。
流石にミレイも、顔を引き攣らせる。
「せめて、貴女の
「……それって、このカードのことですか?」
ミレイは、自身の黒いアビリティカードを取り出す。
「はい。アビリティカードには、文字通りの能力、アビリティを与える力があります。」
受付嬢も、自らの銅色のカードを手にする。
「能力は多種多様で、魔法を扱えるようになる能力、魔獣を召喚する能力、……そして、武器を生み出す能力など。」
受付嬢のアビリティカードが淡く輝くと。
カードは消失し。
その代わりに、一振りの”鞘に入った刀”が出現する。
大人しめな受付嬢の手に握られた、無骨な日本刀。
そのビジュアルに、ミレイは小さく息を漏らす。
「とはいえ、武器としての効果を持たない、単なる道具を生み出す能力などもあるので。あまり分類は意味を成しませんが。」
受付嬢の握る刀が、再び銅色のカードに戻る。
そしてそのカードを、ミレイの元へ差し出す。
「御覧ください。カードには星が存在し、それが”ランク”を表しています。」
受付嬢のアビリティカードには、星が2つ描かれている。
「つまりわたしのカードは、下から2つ目のランクということです。」
カードには星だけでなく、その能力の名前や、図柄などが描かれている。
「わたしの能力は、ありきたりですが、”剣を生み出す力”。名を、『サムライブレード』と言います。」
その説明を終えると。受付嬢はカードの実体化を解く。
「カードのランクは、最高位のもので星が”5つ”。冒険者として輝かしい功績を残す者は、その殆どが星”3つ”以上のカードを所有しています。星1つや2つなど、ランクの低いカードでは、まともに魔獣と戦うことすら叶いません。」
まるで、”よく知っているよう”に。
受付嬢は、カードのランクについて語った。
ミレイも、なぜ受付嬢が冒険者になるのを勧めないのかを理解する。
「カードの仕組みは、解りました。ならその場合、わたしのカードは最低ランクという事ですか?」
「……いいえ。なんと言ったら、良いのでしょうか。」
もしも、ミレイのカードが星1つや2つならば。もっと単純な話だったのだろうが。
「星が1つも無く、なおかつ黒色のカードなど。今までわたしも聞いたことがありません。」
それ故に、ミレイの能力は査定不能と判断された。
「何らかの要因で破壊されたカードは、能力を失って”白紙”の状態になるそうですが。ミレイさんのカードも、もしかしたらそれに近い状態なのかも知れません。」
「……なるほど。」
ミレイは、自身の黒いアビリティカードを見つめる。
異世界から来た影響か。
それとも、何か他に理由があるのか。
しかし事実として、そのカードに能力は宿っていない。
「壊れたカードって、直せるんですか?」
「いいえ。白紙化したカードを修復する手段は、未だに確認されていません。」
「……そっか。なんかちょっと、残念だな。」
受付嬢が刀を出した時は、自分にも何か特別な能力を使えるのではないかと期待したが。
ミレイのアビリティカードは、ただ物言わずに存在するだけ。
「残念ですが、カードは生まれ持った才能です。生涯を通して、なにか他の能力に変わるようなことはありません。早々に、諦めるのが賢明でしょう。」
生まれ持った才能。
そう口にする受付嬢の言葉は、不思議と重たかった。
「ですので、ミレイさんにはケッタマンへ向かう選択をオススメします。この世界で新たな生活を営むにしても、とりあえずは同じ境遇の方々と生活を共にして、この世界に順応するべきかと思います。そうして、また落ち着いて暮らせるようになったら、再びこの街に遊びに来てください。花の都、ジータンへ。」
それはきっと、彼女なりの最大限の優しさなのだろう。
苦手な笑顔を、無理して行うくらいなのだから。
故にミレイは、深く考える。
これからの生き方を決める、大事な選択を。
(わたしはまだ、この世界のことを何も知らない。)
美しい世界だと、初めは思った。
だがきっと、美しいだけでは無いのだろう。
ギルドの建物内に居る他の冒険者達は、みんな不思議な”圧”のようなものを纏っている。
それが、覚悟という名のものならば。
ミレイは瞳を閉じ、己に問いかける。
『――わすれないで。やくそく。』
知らない声。
記憶は無いが。”覚悟”は、残っている。
(そっか。選択肢なんて、初めから1つだった。)
しっかりと目を開けて。
ミレイは受付嬢の顔を見る。
「――ならわたしは、”冒険者”になろうと思います。」
そう正面から、言い切った。
「……それは、何故でしょう?」
受付嬢は静かに問い返す。
「えっと、なんというか。3つの選択肢の中じゃ、それが一番楽しそうだった、から?」
無論、それだけが理由ではなかったが。
ミレイにとっては、それが”最も大きな理由”だった。
「……わたしの話を聞いて。その頭で、しっかりと理解した上での選択ですか?」
相手が小さな子供であろうと関係ない。
受付嬢は真剣に問いただす。
「確かに、何の才能もない人間がやっていけるほど、冒険者は甘い仕事じゃないかも知れませんけど。」
まだ、何も知っていない。
「まぁ最初って、全部そうじゃないですか? どんなに難しくて、過酷な
「――最初は、レベル1からのスタートだって。」
その瞳は、一体何なのか。
何も知らない子供でも、分別をわきまえた大人でもない。
どちらでもない、そんな不思議な瞳をしている。
「……はぁ。分かりました。選択する権利を持つのは、貴女ですので。」
受付嬢は、ミレイの説得を諦めた。
「すみません。多分ですけど、すごく考えてくれたはずなのに。」
そうでなければ、これほど時間は掛からなかったであろう。
「いいえ、お気になさらず。わたし個人としては、”何と無謀で愚かな選択なのか”、と呆れてはいますが。」
正直に答える受付嬢に、ミレイも苦笑いをする。
「貴女が冒険者を目指すというのなら、我々ギルドは全力でそれをサポートするだけです。」
受付嬢が、ミレイに手を差し伸べる。
「歓迎いたします、ミレイさん。」
ミレイはその手を掴んで。
この世界で、冒険者となる道を選んだ。
◇
「……少々お待ちを。すぐに情報を入力して、ミレイさんの登録証を発行いたしますので。」
水晶玉に手をかざしながら。
受付嬢は難しい顔で唸っている。
魔法的な何かなのだろうか。
ミレイも興味深く、それを見つめる。
「ミレイさん、年齢はいくつでしょう?」
「あっ、20歳です。」
その告白に。
受付嬢の手が止まる。
「……あの、別に年齢制限が有るわけではないので。そんな、バカみたいな嘘を吐かなくても良いんですよ?」
受付嬢は、恐ろしく笑う。
けれどもミレイも、決して冗談を口にしているわけではない。
「つい昨日、20歳の誕生日を迎えたばかりなんです。はい。まぁ、本当に……」
若干、縮んではいるものの。そもそもミレイの身長は、中学の頃から微動だにしていなかった。
それ故に、子供に間違われることは慣れっこである。
「……そう、ですか。それはまぁ、おめでとうございます。」
「ええ、どうも。」
家族以外の人間に祝われたことに。
ミレイは内心、とても喜んだ。
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