第41話 修羅場

月城は強引なやつだ。俺の言葉など気にもとめずに差し出してきたその手は着々と近づいてくる。


「はい、あーん」


そういって差し出す月城に、とうとう俺は覚悟を決め、その口を開けた。


「…………」


俺は口の中に放り込まれたパスタを咀嚼する。


……それにしてもこのパスタ、この値段にしてはなかなかの美味しさだ。


どうせなら俺もこっちにしておけばよかったか? なんて考えていると、月城は目を輝かせながらこちらを覗き込む。


「どう? おいしい?」


「ああ」


俺がそう返事をすると月城は安心したような表情を浮かべる。


「良かったあ〜♡」

「……ふふ。やっぱり私に食べさせてもらったから、かな?♡」


「…………」


月城はそう言っているが美味しいのはパスタであって月城に食べさせてもらったからでは無い。


こういう問い掛けにはなんの反応もせずに聞こえない振りをするのだ。


正直にはなれば結果は見えている。


ならば、やはり無視を決め込む、俺も男だ、少しくらい意地を見せてやろう。


「ん? なに? 聞こえないよ? ゆーくん?」


「…………」


「ゆーくん?」


「も、もちろん、月城のおかげに決まってるだろ」


俺がそう言うと、光が消えかけていた月城の目には光が灯り、キラキラした目で俺を見つめている。


そして月城は心底嬉しそうな表情を浮かべ、口を開いた。


「わ、私のおかげ……?! っっ! ええ〜!♡ そうだよね! やっぱり私のパワーだよね!♡ それにしても嬉しいな〜っ、ゆーくんが私の事褒めてくれるなんて!♡ 私たちって両思いだよね〜っ♡♡」


月城はなにやら嬉しそうに話しているし、さてと俺は俺のパスタでも食べますか。


俺は手元に置かれたフォークをとり、パスタをフォークに絡めた。


月城のパスタは美味しかった、きっとこのパスタも美味しいことだろう。期待を膨らませ、俺はパスタを口に運んだ。


「ちょっと〜!!」


すると、月城は膨れた顔で俺をとめた。……が既にパスタは口の中だ。


「……ん?」


俺が慌てて返事をすると、月城は冷酷な目で俺を見つめた。


「なんで食べてるの?」


「……なんでって」


俺がそう問いかけると、月城は至って真面目な表情で話を続けた。


「……だって、あーん。私にもしてくれなきゃダメでしょ?」


「あ、ああ。そういうことか」


これには納得だ。確かに俺は自分だけ月城の分を食ったことになっている。


月城も俺のパスタを食べたかったのだろう。


既に俺はもうこのフォークを使ってしまったが、月城はそれを気にする様子もないし使ってしまおう。


「ん」


俺はそそくさと取り分けたパスタを月城の口へ運ぶ。



「んん〜っ♡♡ ゆーくんの味がする!!」


月城は頬に手を当て、幸せそうに笑顔をうかべた。


「今まで食べたパスタの中で一番美味しいよっ♡」


「そりゃよかったな」


俺はそう言って再びパスタを食べようとすると、月城はまたとめた。


「ちょっとまって!!」


「……今度はどうした?」


俺が呆れながらそう言うと月城は負けじと目を輝かせる。


「も、もう一口っ!!」


「い、いや人が……」


俺はあたりを見渡し、月城へ呼びかける。がしかし、こんなことではくじけない。


「え? なんで?」


「私の事嫌いになったの?」


そう言って心配そうな表情を浮かべる月城に俺は思わず怯んでしまう。


「いや、だからそういう訳じゃ……」


「じゃあ…………あーん」


月城は再び口を開ける。


「ったく」


そして俺が月城の方へパスタを運ぶと、月城はすれ違いざまに、誰かと目が合ったようで動きが止まった。


「どうした? 月城……?」


「え……? 美月……?」


花咲美月。月城の同じグループのメンバー。どうやら彼女もここへ来ていたようだ。

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