第38話 ギリギリ

それから俺たちは遅くならないうちにと、手早く準備を始め、そうそうに家を出発した。


しかし、俺が発案をしたものの、あれは咄嗟にでてしまったものであり、計画していた訳じゃない。


となると、勿論どこに行くかも決めていないのだ。


と、大雑把にしか決まっていない宛に向かって歩き始めた俺たちは、運良く、近くに丁度いいファミレスを見つけたのでそこに入り込んだ。


ギリギリセーフってとこだ。


「ゆーくんはどれにするのー?」


席につき、ガッツリ変装をした月城がメニュー表を見せてくる。


「なかなかメニューが豊富だな」


そう、意外にもここのファミレスはメニューが豊富で優柔不断な俺には決め難い食欲をそそる料理たちが揃っている。


しかし、メニュー表は二つあるにもかかわらず月城はなざか俺の方ばかりをじーっと見ている。


俺、何か月城にやってしまったのだろうか。


まあいい、早いところ決めないとな。


と俺はメニュー表に一通り目を通し、迷いに迷った挙句オーダーが決まったことを月城に伝える。


「……それじゃあそうだな。俺はそこのパスタにでもするかな」


「うんうん! やっぱりゆーくんはセンス良いね!」


曇りない笑顔で月城は俺に笑いかける。


……まあ、センスを褒めてくれるのは有難いことなのだが、それより月城も自分のオーダーを早いところ決めて欲しい。


それに俺が注文するのはタダのクリームパスタだぞ。


「それで、月城はどうするんだ?」


「私もゆーくんと同じのにする!♡」


月城は俺の問いかけに間髪入れずに答える。


またまた純粋無垢な笑顔だ。変装ごしからも分かるほど、超がつくほどの可愛いさ。


しかし、月城もそれにするなら俺は注文を変えたい。


迷いに迷った挙句にこのメニューを選んだんだ。


月城もそれにするというのなら、俺は迷いに迷った候補の方を選んでおきたい。


「……せっかくだから俺はこっちを選ぶよ」


「え? なんで?」


月城は不満そうに首を傾げる。


それもそうだ、月城が選んで俺が変えたら避けているように見えてしまうのも無理はない。


まあ、ただの貧乏性かも知れないが、どうせなら、選びたくなってしまう。


「せっかく二人で来たんだからさ」


「どういうこと? 私と同じものを食べるのが嫌なの? ゆーくんは嫌なの?」


月城は俺を圧倒するように話し続けた。


「いやいや、そういうことじゃなくて……」


「ゆーくんと私は味覚も共有しておきたいの!!」


と、月城が大声で味覚共有の話をしてきた所で俺は詳しい説明を入れる。


このままだと何か勘違いされていそうだしな。


それに大声をだされたら正体がバレかねない。


今の月城を鎮めるためにも……


「……でもまあ、どうせなら違った方が月城と交換して二つの味が楽しめるかなーなんて」


俺が、そういうと月城の表情は心做しか晴れたような気がした。


そして俺は補足の為に再び口を開く。


「ま、月城が嫌なんだったら全然大丈夫だけど……」


「な……なるほど……」


月城はそう呟くと、妙に納得したような表情を浮かべる。


月城は交換が嫌だったのか? そういうことなら、全然言ってくれれば良かったのに。


「嫌なんだったら言ってくれ。別に俺は──」


「──ふふ、全く! ゆーくんは照れ屋さんだね♡」


月城は意外にも俺に被さるように話し始めた。


それに照れ屋とかなんとか言っている。

一体何の話だ。


「……照れ屋?」


俺がそう言うと、月城は確信をついたように深呼吸一つすると、自信満々に話し始めた。


「ゆーくんってば、私にあーんして欲しかったんでしょ!!」

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