第37話 外食

「じゃあ、さっきから何でしつこく聞いてくる訳?」


月城はキレ気味になり、虚ろな目で俺を見つめた。


月城がこの状態になってしまっては最早手を打ちようがない。


無論、ここで求められるのは月城を刺激しない回答、様子をみて模範解答を探すのだ。


「つ、つい隠し味が気になってしまって……」


「……はあ……。やっぱりね」


俺がそう言うと月城は大きくため息をついた。


……やっぱり? 月城はやっぱりなどと言っているが、俺はなにか良からぬ誤解をうんでしまったのだろうか。


さらに表情もどことなく曇っている。


「やっぱり、?」


俺が恐る恐る聞き返すと、月城はため息混じりに話し始めた。



「やっぱり。やっぱり、ゆーくんは私の手料理なんて食べたくないんだ」



「やっぱりゆーくんは私のこと本当は全然──」



「っいや違う! 今日はどっか食べに行きたい、なんて思って」


と、俺は、誤解を解こうとするあまり咄嗟に変なことを口走ってしまった。


いうまでもなく月城と二人きりでどこかへ食べに行きたいわけが無い。


月城と外出、ましてや外食なんて危険がいっぱいだ。


だがしかし、俺が言わなければさらに酷いことになっていたに違いない。


きっとこれでよかったのだ、と俺は自分に言い聞かせた。


すると、曇っていた月城の表情は次第に晴れていき、ぽかーんとしている。


「え? 外食、?」


この反応を見る限り、俺からの突然の外出宣言に月城は驚いている。


ま、それもそうだろう、俺から月城に何かを誘ったことなど殆どない。そして誘うつもりもなかった。


これは当然の反応と言える。


しかし、問題は、月城に月城の料理よりお店の料理のほうが好きなんだ、と勘違いされてしまう事だ。


これだけは何としてでも避けなければいけない。


「まあ、俺たち勉強頑張った訳だしさ。たまには外食もありかなー? なんて。これ以上でもこれ以下でもない、がから全然深い意味なんて──」


「えっ♡ ゆーくんまさか、そ、それって」


そう言って月城は目を輝かせた。


「ら、ラブラブデートのお誘いっっ?!」


月城は再び目をキラキラと輝かせた。


何とか誤解は避けたが月城はラブラブデートだと勘違いしてしまったらしい。


ラブラブデート以前に俺たちは付き合ってもいないのだが。


「ラブラブデート? 何を言う、俺たちは別に付き合っ──」


「……なに? ゆーくんは何が言いたい訳?」


「い、いや、ラブラブデートなんて、全くその通りだな、ってな」


俺は一瞬表情の曇った月城を宥める。もう下手なことを言うのは辞めておこう、そう誓った。


「っっ♡ や、やっぱりゆーくんもそう思うよねっ!!♡」


「やっぱり私たち相思相愛だよね〜っ♡♡」


そんな会話を混じえつつ俺たちはチェーン店へと向かうこととなった。

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