第36話 勉強……

「よし、まあまあ出来たな」


「ふー! ゆーくんと一緒なら勉強も楽しかった!」


あれから何時間か経ち、今はやっと一息ついたかという所。


意外にも月城は勉強に真剣で、俺の勉強が滞ることもなく、満足した時間を過ごせた。


まあ、月城が俺との距離を詰めてくるせいで危うい場面も多々あったが、何とか乗り越えた。


誰かに教えながらする勉強も悪くは無い。


「どうだ? 勉強まだ続けるか?」


と、ペンを置いた俺は疲れきった表情を浮かべる月城に問いかける。


「うーん。私はもっと勉強したいんだけど、普段勉強しないせいか、ちょっと疲れちゃったかな」


「そうだよな。何事も頑張りすぎは良くない」


俺はそう言って、内心ほくそ笑みながら伸びをする月城を眺める。


月城とする勉強も悪くはない、悪くはないのだが、流石に俺一人でやる勉強の方が効率はいい。


月城との距離が近すぎて、誘惑に耐えながらする勉強するのはもう勘弁だ。


俺は再びペンを握り、口を開く。


「ここからは俺一人で勉強を進める」

「それじゃ……」


俺がそう言って、再び勉強に取り掛かろうとすると、不覚にも月城にも聞こえるほどにお腹がなってしまった。


昼飯が足らなかったか……。


「……どうしたの? ゆーくんお腹すいたの?」


「ま、まあな。勉強に集中するあまりいつの間にか、いつもの晩御飯の時間だしな」


そう言って俺は時計を見上げる。勉強に集中するあまり時計に目をやらなかったのが原因だ。


いつのまにか普段の晩飯の時間になってやがる。


やっと一人勉強に取りかかれると思っていたのに……。


畜生、これで月城が何かアクションを起こさなければいいのだが。


「よーし! それじゃ、私ゆーくんの為にご飯作ってくるね! 今日はゆーくんが頑張れるように隠し味もたっぷり入れてあげるねっ!♡」


と月城は優しく俺の笑いかけた。……ああ、これは微塵もうれしくないビンゴだ。月城がご飯を作ってくれるのは有難い、というかいつもの事だ。


しかし問題はその後、どうやら隠し味とやらをたっぷりいれてくれるらしい。


普段俺は危険な香りがする隠し味は入れるのを止めているのだが今回ばかりはそうもいかない。


もう既に月城は椅子から立ち上がって乗り気である。


と、俺はたどたどしく月城に隠し味を問いかける。


「……隠し味……因みに隠し味には何を入れるつもりだ?」


「え〜! それを言ったら隠し味にならないよっ!」


そう言って月城はにこにこしながら台所へ向かう素振りを見せる。


「それも一理あるが……」


俺はため息混じりに呟いていた。入れるな、なんて言ってしまっては機嫌を損ねかねない。


いつもなら言えるはずだが今日はいつにも増して張り切っている。到底言える状況ではない。


すると、台所へ向かっている月城が後ろへ振り向き、俺に笑いかけた。


「ふふ、ゆーくん楽しみにしててね! ゆーくんの為に奮発しちゃうっ!!♡」


そういって振り向く、月城の頬は、寧ろ耳の先まで赤らんでいる。こいつ、本当に一体何を入れるつもりだ。


「ちょっとまて、隠し味は……」


俺がそう言うと、月城は不満そうな表情を浮かべた。


「なに? ゆーくん私作った料理食べてくれないの?」


「いやいや、全然そういう意味ではなく」


俺がそう言うと月城は立て続けに言葉を被せる。


「まさか私の料理食べたくないの?」


「いや」


「私の事嫌いになったの?」


「だから、そんなことは」


月城の圧に押されながら俺は必死に食らいつく。さっきみせた月城の表情を見ればわかる。


恐らく月城は何か危険なものをいれるはずだ。何としても食い止めなければ。

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