第32話 弁明

「ゆーくん、この人たち誰?」


二人組が現れると、月城は不安げに俺に近寄りヒソヒソと話す。


「さあな、知らない奴だ」


俺はボソッと答える。


知らない奴、とは言っても知らない奴ではない。


同じ学年だからということもあるが、入学したての頃はそこそこ話していたと思う。


友人と呼んでも差し支えないほど。


ま、話さなくなった原因は言わずもがなあの噂のおかげだ。


そしてコイツは、俺を煽るような表情を浮かべ話し始めた。


「おいおい、そんな顔するなよ唯斗さんよお」


どうやらコイツ、今日は乗り気なようだ。


コイツがあの噂を鵜呑みにしてからはまともに口を聞いて貰えなかったもので、てっきり俺と話したくないんだろうと思っていたのだが違ったみたいだ。


今日はこいつから話しかけてきている。


「私のゆーくんに気軽に話しかけないで」


すると、月城は冷たい声でそう言った。


「私の……ね。唯斗、お前も懲りないやつだな」


元友人、馬場は俺を見つめると、ため息混じりにそう言った。


「懲りない? 何を言っているのかサッパリだな」


俺は敢えてそう言った。噂など所詮噂、俺はわざわざ自分から冤罪について取りあげようだなんて思わない。


馬場の連れは俺の事なんて甚だ興味無さそうに携帯をいじっているしな。


「笑わせてくれるな。振られたはずの幼馴染までにちょっかいかけて」


「……違うの、それは」


黙っていた芽衣が思わず声を上げるが、そんなことはお構い無しに馬場は言葉を重ねていく。


「さらには別の女もついてやがる。何がサッパリなんだかな」


「……言っておくが俺が好んでこんな状況にしてる訳じゃない」


失笑する馬場に俺は弁明を試みる。


馬場は俺が望んでこの状況を生み出しているとでも言いたいのだろうか。


そういうことは俺の置かれた立場を知ってから言って欲しいものだ。


俺がこんな状況好むはずがない。


「ったく、言い訳は見苦しいな。浮気クズ男」


馬場はその名を口にした。


「ッ何を言う、俺は浮気なんてしない」


俺は間髪入れずに早く言葉を打ち消した。


すると、馬場は辺りを見回し、心底バカにしたような表情を浮かべた。


「ほう……それじゃ……これ、どういうことだろうな?」


「……っ」


俺は言葉が詰まってしまう。馬場とはもう関わりたくない、早く逃げたい。


しかし、ここから逃げる為の最適解が浮かばない。なんて言えばこの状況を切り抜けられるのだ。


俺は一体何をするべきなんだ……と俺が言葉につまっていると月城が口を開いた。


「何言ってるの? 浮気? クズ男? ゆーくんはそんなことする訳ないよ。私と愛し合ってるんだし」


月城はそう言って純粋無垢に首を傾げると、俺の手首をギュッと掴んだ。


「気の毒だが教えてやろう、コイツ、唯斗の噂と言えば驚くものばかりだ。携帯を見れば女の連絡先で埋まっている、毎晩別々の女の家に泊まり込んでいる、なんてな」


馬場がそう言って、さらに言葉を続けようとすると月城は俺の携帯を奪って馬場に見せつけた。


「悪いことは言わない、さっさと唯斗からは離れ──」

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