第31話 地獄

俺は思わず息を飲む。


これは間違いなく、修羅場というやつだろう。


もはや意味がわからない。どこをとっても意味が分からない。


学校を特定し、俺の帰りを持っている月城。


明らかに俺と月城のお取り込み中だというのにズカズカと入り込んでくる芽衣。


俺が失笑していると、俺より先に月城が口を開いた。


「何? あなた、またゆーくんを誘惑しに来たわけ?」


「誘惑? 何を言ってるの? 私がいつ唯斗を誘惑したの?」


月城がため息混じりにそう言うと、芽衣も負けじと反抗する。


当の俺といえば二人を宥める為、話に割り込むことも出来ず、渋々周りに目を向けているとかなりの視線を感じ、ただ今絶望している最中。


しかし、そんな俺を他所に会ったばかりのはずなのに二人の言い合いは止まらない。


「へー? 誘惑じゃないなら、なんで私のゆーくんに話しかけてきたのかな?」


「別に話しかけたって誘惑とは結びつかないもの」


既にカラスが鳴き始め、部活のない人達の帰り際ということで中々に賑わい始めた。


大抵は見てないフリをして門を通っていくのだが、所々に群れている連中もいる。


しかし、言い合いは止まらない。


「いい? 私とゆーくんは愛し合ってるの。あなたの入る余地なんてない」


「別に私は、その関係に入り込もうとしてる訳じゃない」


そして、とうとうマズいと感じた俺は二人の言い合いに口を挟んだ。


「いや、ちょっとまて。こんな所で言い合いをするな!」


俺がそう言うと、月城は呆れた様子で苦笑した。


「ごめんね? ゆーくん、私たちの再会に邪魔が入っちゃって」


「いいや、問題ない。……んなことより俺は帰りたいんだ」


再会と言っても離れたのはほんの数時間なのだが。なんてつっこんだ所でいいことは無い。


すると、今度は芽衣が悲しげな表情を浮かべた。


「私が邪魔……か。……唯斗、ごめんね」


「そういうことを言ってるんじゃな──」


誰も芽衣が邪魔だとは言っていない。いや、月城は言っていたな。


だが少なくとも俺は言っていない。すると、月城は俺の裾を掴んだ。


「え? ゆーくん浮気?」


「っ、月城いきなり、なにを?」


俺は思わず動揺してしまう。残念なことに元々付き合っている訳では無いのだが妙にゾッとする。


するとふと、奥から門へと歩いてくる連中の会話が耳に入った。




「唯斗と、あの子って付き合ってんのか?」


「いや、知らねーな。しかし……あの声どっかで聞いた事あるよな」




しかし、俺はそんなこと聞かないふりをして月城と話を続けた。


大丈夫、怪しまれないことをしなければ明日には忘れられているだろう。


「おい、よしてくれよ。俺が浮気なんてしたことがあるか?」


「……確かにそうだね。ゆーくん疑ってごめんね。悪いのはこの女だよね?」


月城はそう言うと俺の裾を掴む力を強めた。


「芽衣の事はあまり悪く言わないでやってくれ、幼馴染だし、な」


「うん! 愛するゆーくんの頼みならなんでも!」


「ありがとな、それじゃ──」


俺がそう言いかけると、思いもよらぬ最悪の事態が巻き起こった。


「──よお、唯斗! お前、めちゃくちゃに可愛い子連れてんじゃん? まさか彼女でも出来たか?」


特に会話したことのない二人組が話しかけてきた。もちろん、お目当ては俺じゃないんだろうが本当に勘弁してくれ。

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